近年、製薬・化粧品業界においても深刻な人手不足が問題となっています。しかし、製薬・化粧品業界は、様々な制約から自動化が進んでいないのが現状です。
そのため、製薬・化粧品業界では、一般製造業とは異なる視点が不可欠です。単にロボットを導入すればよい、という話ではありません。
本ブログでは、製薬・化粧品業界ならではの悩みについて整理し、どのように自動化実現させるのかを解説します。
目次[]
製薬・化粧品業界における課題
薬事(RA)や品質保証(QA)、臨床開発(Clinical Development)などの多くの分野では、一つのプロジェクトが長い傾向が見られます。また専門性が高いゆえに時に孤独な作業となり得ます。
そのためプロジェクトが終わったのを機に離職する従業員が多く見られ、優秀な人材を常に社内に留めておくことが多くの企業にとって課題となっています。
また、調達した原料の受け入れ作業における人手不足も深刻な問題です。原料は、20kg~30kgと重量があるため新たに人を採用することも困難です。
医療・製薬業界で自動化が進まない理由

厳格な法規制と品質保証の壁
医薬品業界では、品質と患者の安全が最優先されます。そのため、新しいデジタル技術を導入する際には、システムの信頼性を保証するための厳格な検証(コンピュータ化システムバリデーション:CSV)が不可欠です。このプロセスに時間とコストがかかることが、DX推進のハードルとなっています。
研究機関・製造現場におけるスペース的な制約
加えて、製薬・化粧品業界の研究機関や製造現場では、スペース的な制約も自動化を難しくする要因となっています。
研究施設やラボは、もともと人の作業を前提に設計されているケースが多いです。そのため、大型設備や安全柵を必要とする自動化設備を、後から設置することが困難な場合があります。
費用対効果の判断が難しい
DXへの投資は、必ずしも短期的な利益に直結するとは限りません。特に研究開発や人材育成といった領域では、投資対効果(ROI)を明確に算出することが難しく、経営層の理解を得にくいケースがあります。
ロボットシステムの導入でバリデーションが必要となるのはどういう時か?
医薬品の製造工場でバリデーションを行わなければならないことは、改正GMP省令第13条に記載されています。
第十三条 製造業者等は、あらかじめ指定した者に、手順書等に基づき、次に掲げる業務を行わせなければならない。
一 次に掲げる場合においてバリデーションを行うこと。
イ 当該製造所において新たに医薬品の製造を開始する場合
ロ 製造手順等について製品品質に大きな影響を及ぼす変更がある場合
ハ その他製品の製造管理及び品質管理を適切に行うために必要と認められる場合
二 バリデーションの計画及び結果を、品質保証に係る業務を担当する組織に対して
文書により報告すること。
2 製造業者等は、前項第一号のバリデーションの結果に基づき、製造管理又は品質管理に関し改善が必要な場合においては、所要の措置をとるとともに、当該措置の記録を作成し、これを保管しなければならない。引用元:令三厚労令九〇・一部改正
製造工程での原料の搬送や、検査後の良否判定といった工程にロボットが使われる場合、上記の「ロ 製造手順等について製品品質に大きな影響を及ぼす変更がある場合」に該当することとなります。
このように、製造や検査など医薬品の品質に直接関わらないと考えられる設備であっても、製造管理および品質管理の適正な実施のために必要と認められる場合には、バリデーションの対象となることがあります。
製薬・化粧品業界における自動化設備を導入する上での注意点
医薬品製造においては、ロボットも設備の一部として扱われます。
そのため、
- 設備が正しく設置されているか
- 想定した動作が安定して行われるか
- 実運用条件下でも品質を担保できるか
といった点を、文書として確認・記録するバリデーションが不可欠です。
また、クリーンルーム内で使用する場合には、ロボット本体がクリーンルーム対応しているか確認が必要です。
協働ロボットであっても、クリーンルーム対応が前提となります。そのため、機種選定やシステム設計の段階から、慎重な検討が必要です。
製薬・化粧品業界における自動化事例
製薬・診断ラボにおける検体分析自動化
分析装置への投入や分析後のワークの取り出し作業は大きな負担となっています。
ユニバーサルロボットが実験室において使用されている例になります。人と協働しながら、直径約1cmほどのケースに採血管を入れている様子がわかります。
少しでも位置がずれると採血管がケースにぶつかってしまいますが、動画では全て正確に移動させています。
化粧品製造における自動化
化粧品や医薬部外品を製造・販売するマンダムが、試供品ボトル詰め工程に協働ロボットを導入しました。
専用機は汎用性に乏しく、産業用ロボットは安全柵や高度なプログラミングが課題でした。そこで、設置自由度が高く操作が容易なユニバーサルロボットの協働ロボットを導入しました。
その結果、外注していた一部製品を自社の無人ラインで対応でき、外注費削減と社内の技術力向上を実現しています。現在は5台のURロボットが稼働し、中栓装着からキャップ締め、搬送、検査、パレタイジングまで、一連の工程を自動化しています。
医薬品・化粧品における最終工程自動化
歯磨き粉のOEM製造工場では、人手不足という背景がありました。そこで、パッケージング・ボックス架設ラインへURの協働ロボット(UR5)を導入しました。
操作性と柔軟性の高さを活かし、多品種少量生産可能な柔軟な生産ラインを構築しています。
その結果、パッケージング工程の生産性が約30%向上しました。また、人員を削減しながらも安定稼働を実現しました。それにより、自動化により、作業者が付加価値業務に集中できる体制が整いました。
医薬品製造における積み付け作業の自動化
最終製品の積み付け自動化に7台の協働ロボットを導入しました。
目的は、生産性向上と作業員の荷役負担軽減です。
1日あたり数百kgに及ぶ段ボール搬送による筋骨格障害リスクの低減が課題でした。
UR10導入により、作業時間は約10%短縮され、作業員は重労働から解放されました。また、省スペースで設置でき、箱サイズ変更にも柔軟に対応できる点が評価されています。
結果として、少人数で複数ラインを担当できる体制が実現しました。人件費削減と生産性向上により投資回収期間は約24か月と算出されています。
よくあるご質問(Q&A)
Q1. 製薬・化粧品業界でもロボットによる自動化は可能ですか?
可能です。
ただし、一般製造業と同じ考え方で導入することはできません。
製薬・化粧品業界では、GMPや品質保証、バリデーション対応を前提とした
工程設計が求められます。
Q2. 協働ロボットを導入する場合、バリデーションは必要になりますか?
医薬品の製造工程に関わる場合、多くのケースでバリデーションが必要になります。
製品品質に影響を及ぼす場合、バリデーションを実施することが求められています。
また、原料搬送や検査後の良否判定など、一見すると品質に直接関係しない工程であっても、製造管理・品質管理の適正な実施に必要と判断されれば、バリデーションの対象となる点には注意が必要です。
Q3. クリーンルーム内でも協働ロボットは使用できますか?
使用可能ですが、ロボット本体の仕様と動作条件の確認が必須です。
ユニバーサルロボットの場合、クリーンルーム対応の目安として、
以下のような仕様が示されています。
IP等級:IP54
粉塵の侵入をある程度防止し、清掃を伴う環境でも使用しやすい仕様です。
クリーンルームクラス(ISO 14644-1)
空気中の粒子濃度による清浄度分類に基づき、動作条件によって適合クラスが異なります。
- クラス5:最大速度・可搬重量の40%以下で動作
- クラス6:最大速度・可搬重量の80%以下で動作
Q4. クリーンルーム対応ロボットであれば、そのまま使えますか?
必ずしもそのまま使えるとは限りません。
重要なのは、「どのクリーンルームクラスで、どの動作条件まで許容されているか。」正しく把握する事が求められます。
Q5. スペースが限られた工場や研究室でも導入できますか?
協働ロボットは、省スペース環境での導入に適した自動化手段です。
従来の産業用ロボットと異なり、大規模な安全柵を必要としないケースも多く、
既存レイアウトを大きく変えずに導入できる場合があります。
研究室やクリーンルームなど、スペース制約の厳しい現場でも検討しやすい点が特長です。
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