VLAモデルが登場する以前のロボットは、動作を事前に細かく決める必要がありました。もし、ロボットが人の言葉を理解し、自ら「見て・考えて・動く」ことができれば、多くの業務はより効率的になるはずです。
これらを実現するアプローチとして、VLAが関心を集めています。
本記事では、VLAの基本概念から、最新の動向までわかりやすく解説します。また、従来のロボット制御とVLAの違いや、今後どのようなメリットをもたらすのかについて解説していきます。
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VLAとは何か

VLAモデル(Vision-Language-Action Model)は、 視覚(Vision)・言語(Language)・行動(Action)をリアルタイムに意思決定と動作を行います。これまで別々に処理されてきた3つの要素を統合して処理するルチモーダルAIシステムと言えます。
- Vision(視覚):カメラ画像から環境を認識・理解
- Language(言語):自然言語による指示やコミュニケーション
- Action(行動):物理世界での具体的な動作・操作
従来のロボットシステムでは、視覚認識・指示理解・動作制御が個別に設計されてきました。そのため、各要素を連携させるには複雑なプログラミングや調整が必要でした。
一方、VLAモデルでは、これら3つの要素を単一のニューラルネットワークで統合します。学習もエンドツーエンドで行われます。そのため、「○○を取って」といった自然言語の指示だけで、ロボットが環境を視覚的に認識し、適切な行動を選択できるようになります。
VLAロボットは、「アレクサのロボット版」と表現されることがあります。
この例えは、言葉で操作できる点では近いイメージです。ただし、VLAロボットは単なる音声操作ではありません。アレクサが決められた命令を実行するのに対し、VLAロボットは周囲の状況を見て判断します。
例えば「この箱を空いている場所に置いて」と指示すると、
VLAロボットは箱や環境を視覚的に認識します。
その上で、最適な動作を自ら考えて行動します。このように、VLAロボットの本質は「決められた操作を実行する」ことではありません。「状況を見て、どう動くべきかを考える」点にあります。
これが、従来の音声アシスタントやルールベース制御との大きな違いです。
VLM (Vision-Language Model)との違い
VLAと似たモデルとして、VLM(Vision-Language Model)があります。VLMは画像とテキストを統合的に処理するマルチモーダルAIモデルです。
画像キャプション生成や画像検索、マルチモーダル質問応答などの分野で高い性能を発揮します。一方で、VLMの出力はあくまで言語情報にとどまります。
現実世界で行動を起こす機能は、基本的に備えていません。
一方、VLAはVLMの能力を拡張し、認識した情報を基に行動計画を立て、物理的なアクションを実行する点が大きく異なります。VLMが画僧識別と言語処理までを担当するのに対し、VLAはそこから先の「どう動くか」を計算し、ロボットやデバイスを動作させるまでを担います。
つまり、VLMは認識と理解を担うAIであり、VLAはそれを現場の動作へとつなげる実行型AIだと言えます。
従来のロボット制御の限界

従来のロボット制御は、事前に定義されたルールやプログラムに基づき、同じ動作を正確に繰り返すことを得意としてきました。生産ラインで一定の作業を高速かつ安定して行う産業用ロボットは、その代表的な例です。
一方で、この方式は環境の変化に対する柔軟性が高いとは言えません。対象物の位置がわずかにずれたり、形状や配置が変わったりすると、想定外のエラーが発生することがあります。そのたびに再ティーチングやプログラムの修正が必要になる点は、大きな課題です。
また、視覚情報と言語指示を統合して扱えないことも制約の一つです。例えば、「机の上にある三角チョコパイ取って」といった指示を理解し、周囲を見渡して対象を特定し、動作につなげることは困難でした。
こうした制約により、従来のロボットは用途や環境が限定されがちでした。しかし、VLAは、視覚と言語を組み合わせて状況を理解し、行動までを一体で扱うことで、こうした限界を乗り越える技術として注目されています。
VLAモデルの仕組み【構造と処理の流れ】
VLA(Vision-Language-Action)モデルは、ロボットが環境を理解し、指示を解釈し、行動を実行するまでを一体で扱うAIモデルです。
その構造は、従来のロボット制御とは異なり、処理の流れが明確に整理されています。
次の3つの段階に分けて考えると理解しやすくなります。
- 動く(行動生成):具体的なロボット動作を作り出す
- 見る(入力):カメラやセンサーで環境を把握する
- 理解する(理解):言葉の指示と状況を結び付ける
VLAモデルの仕組み①視覚情報の処理
VLAでは、最初に周囲の状況を把握するための視覚処理が行われます。
ロボットはカメラや各種センサーを通じて作業空間の情報を取得し、画像や映像を解析します。
その過程で、作業対象となる物体や配置関係が整理されます。
このときに用いられるのが、画像と言語の両方を扱えるマルチモーダル基盤モデルです。
視覚エンコーダは画像内の特徴を数値化し、物体検出や領域分割によって構造的な情報へ変換します。
こうして整理された視覚情報は単独で使われるのではなく、後続の言語解釈や行動判断と連携して利用されます。
そのため、環境が変化しても状況を捉え直しやすく、未知の場所でも物体同士の位置関係を把握しやすくなります。
VLAモデルの仕組み②言語解釈
言語解釈は、人の指示をロボットの行動へとつなぐ重要な役割を担います。
VLAでは、入力された言葉を単純な命令として処理するのではなく、その背後にある意図を読み取ることが重視されます。
この処理の中核となるのが、LLMで広く採用されているTransformerアーキテクチャです。
自己注意機構によって文全体の意味の流れを把握し、指示文の中で重要な要素を抽出します。
さらに、言語情報は視覚処理の結果と組み合わせて解釈されます。
これにより、対象となる物体や求められる操作が明確になり、その情報が次の行動生成プロセスへと渡されます。
従来のルールベース手法と比べ、多少あいまいな表現でも文脈から意味を推測できる点が特徴です。
VLAモデルの仕組み③行動の計画と実行
行動の計画と実行では、視覚情報と言語解釈の結果をもとに、ロボットの具体的な動作が決定されます。
ここでは、行動をトークンとして扱う考え方が採用されています。
ロボットの動作は細かな行動単位に分解され、それらを順序立てて並べることで一連の作業として表現されます。
この考え方は、文章を単語の並びとして生成する手法に近いものです。
例えば「赤いコップを持ってきて」という指示は、対象の特定から把持、移動、配置までの複数の行動に分解されます。
生成された行動の流れは制御システムへ送られ、実際の動作として実行されます。
この仕組みにより、既存の行動を組み合わせながら新しい作業にも対応できます。
また、直接学習していない物体であっても一般的な知識をもとに判断できるため、抽象的な指示にも柔軟に対応可能です。
VLAの活用分野とロボット業界におけるメリット
産業応用・ロボット分野

特に、ヒューマノイドロボットや協働ロボットの分野では、従来の自動化手法では対応が難しかった柔軟性の実現が期待されています。
- プログラム依存の低減
従来は作業ごとに個別の動作設計が必要でした。
しかしVLAでは、言語指示と視覚情報をもとに行動を生成できるため、細かなプログラミングへの依存を抑えられます。
その結果、工程変更や製品切り替えへの対応が容易になります。 - 環境変化への適応力
作業対象の配置や周辺設備が変わることは避けられません。
背景や作業環境の変化に柔軟に対応できる可能性があります。
これにより、再ティーチング工数の削減が期待されます。 - 運用性の向上と属人性の低減
現場担当者主体での運用が可能となり、属人化した運用からの脱却につながります。 - ロボット導入時における学習コスト・スイッチングコストの低減
従来、ロボットを導入する際に、運用方法のが作業者の負担につながっていました。VLAにより、教示作業が不要になるため自動化の心理的負担を減らすことが可能です。また、ロボットの機種ごとに操作法を学ぶ必要なくなります。
日常生活支援

VLAは、家庭や生活空間で人を補助するロボットへの応用も検討されています。
家事・生活補助
「棚にある飲み物を取って」「散らかっているものを片付けて」といった曖昧な指示に対して、
周囲の状況を見ながら適切な行動を選択するロボットの実現が想定されています。
特定の家具配置や物品を事前に登録しなくても対応できる点は、従来の家庭用ロボットとの差別化ポイントです。
高齢者や身体的負担を抱える人の生活支援としての可能性も議論されています。
医療応用

医療分野では、安全性と正確性が特に求められるため、VLAの導入は段階的に進むと考えられます。
補助作業・院内業務
医療スタッフの指示を理解し、器具の受け渡しや物品搬送を行う補助ロボットへの応用が期待されています。
視覚情報と言語指示を組み合わせることで、作業内容を柔軟に切り替えられる点が利点です。
リハビリ・介助支援
患者の動作や周囲の状況を認識しながら、リハビリ動作の補助や介助を行う用途も検討されています。
ただし、現時点では安全性や責任範囲の整理が不可欠であり、限定的な環境からの導入が現実的とされています。
代表的なVLA関連技術・モデル
VLAは単一の完成された製品ではなく、複数の研究や技術の積み重ねによって形成されつつある概念です。
現在は主に海外の研究機関やテック企業を中心に、ロボット向け基盤モデルとしての開発が進められています。
ここでは、VLAの考え方を理解するうえで重要な代表的モデルやアプローチを紹介します。
| モデル名 | 特徴 | 主な特徴 | |
|---|---|---|---|
| RT-2(Robotics Transformer 2) | Webスケールの言語・画像知識を行動に転移。未学習タスクにも対応可能 | 汎用ロボット制 御、研究・実証 | Google DeepMind |
| Helix | 模倣学習と実運用データで成長。環境変化への高い適応性 | 製造・倉庫でのヒューマノイド活用 | Figure AI |
| π0(Pi-Zero) | 軽量・高汎用。少量データやゼロショット適応に対応 | 家事、整理整頓、実運用向けVLA | Physical Intelligence |
| Gemini Robotics 1.5 | 思考(計画)と行動生成を分離。多段階タスクに強い | 複雑作業の自律実行 | Google DeepMind |
| Tesla Optimus | 実世界映像データを活用。人型で柔軟な作業が可能 | 製造・物流・人手不足対策 | Tesla |
| NVIDIA Project GR00T(GR00T N1) | GPU前提のVLA基盤。学習〜制御を統合支援 | ロボット開発基盤、研究・産業連携 | NVIDIA |
RT-2(Robotics Transformer 2|Google DeepMind)
RT-2は、Google DeepMindが開発したロボティクス向けモデルです。
人間の自然言語指示を理解し、それを現実世界の動作へと変換することを目的としています。
特徴は、Webスケールの画像・言語データと、比較的小規模なロボット動作データを組み合わせて学習している点です。
これにより、事前に明示的に学習していないタスクにも対応できる「創発的能力」を示します。
実験では、前世代モデルと比べて未知タスクの成功率が大きく向上しました。
RT-2は、VLAが研究段階から実用に近づきつつあることを示す代表例です。
Helix(Figure AI)
Helixは、ロボット開発企業Figure AIが発表したロボティクスモデルです。
模倣学習と人間によるデモンストレーションを組み合わせ、状況に応じた行動生成を行います。
運用を続ける中でデータが蓄積され、未知の物体やタスクへの対応力が向上します。
環境変化の多い製造現場や倉庫においても、高い適応性を発揮します。
BMWの製造工場への導入が発表されており、
「使いながら成長するVLAモデル」という現実的な運用像を示しています。
π0(Pi-Zero|Physical Intelligence)
π0は、Physical Intelligence社が開発を進めるロボティクス向けVLAモデルです。
比較的軽量でありながら、高い汎用性を持つ行動生成AIとして設計されています。
少量データやゼロショットでのタスク適応を前提としており、
従来の大規模学習に依存しない点が特徴です。
現実世界の変化への対応力を重視して設計されており、
VLAを実運用へ近づけるモデルとして注目されています。
オープンソースで公開されている点も、産業界・研究界双方から評価されています。
Gemini Robotics 1.5(Google DeepMind)
Gemini Robotics 1.5は、Geminiシリーズのロボティクス特化モデルです。
自然言語理解と現実世界でのタスク実行を両立させることを目的としています。
本モデルは、
- Gemini Robotics-ER(思考・計画)
- Gemini Robotics(行動生成)
という2つのモデルで構成されています。
曖昧で複雑な指示を高レベルの計画へ分解し、それを具体的な動作に落とし込む構造です。そのため、多段階タスクに対応できる点が、従来モデルとの大きな違いです。
Tesla Optimus(Tesla)
Tesla Optimusは、Teslaが開発を進める人型ロボットです。
自動運転AIで培われた認識・判断技術を、ロボット制御に応用しています。
特に、膨大な実世界映像データを学習に活用している点が特徴です。
これにより、周囲の状況を理解しながら柔軟に動作できます。
デモでは、繊細な把持作業やバランス制御が示されており、
汎用ロボットとしての可能性を現実的に示しています。
NVIDIA Project GR00T(GR00T N1)
GR00T N1は、NVIDIAが発表した次世代ロボティクス基盤です。
視覚・言語・行動を統合し、GPUアクセラレーションを前提とした設計になっています。
物理挙動を再現した仮想環境で大規模に学習を行い、学習から推論、制御までを一貫して支援します。
オープンな開発基盤として、複数のパートナーと連携している点も特徴です。
VLAを支える「インフラ側の基盤技術」として重要な位置付けにあります。
VLAモデルに関するよくある質問(Q&A)
Q1. VLAモデルは従来の産業用ロボットをすぐに置き換える技術ですか?
現時点では、すべての産業用ロボットを即座に置き換える技術ではありません。
従来型ロボットが得意とする高速・高精度・反復作業は、引き続き有効です。
一方でVLAは、
- 工程変更が多い
- 作業内容が曖昧
- 環境変化が頻繁
といった柔軟性が求められる領域で強みを発揮します。
そのため、今後は用途に応じて従来制御とVLAを使い分ける、あるいは併用する形が現実的と考えられます。
Q2. VLAモデルを使えば、ロボットのティーチングや学習は完全に不要になりますか?
完全に不要になるわけではありません。
ただし、従来と比べて教示や再学習の負担を大きく減らせる可能性があります。
VLAは、
- 言語指示
- 視覚情報
を組み合わせて行動を生成するため、作業ごとに細かな動作を事前定義する必要性が低下します。
その結果、工程切り替えやレイアウト変更時の学習コスト・スイッチングコストの低減が期待されています。
Q3. VLM(Vision-Language Model)とVLAは何が決定的に違うのですか?
最大の違いは「行動を実行するかどうか」です。
- VLM:
画像を理解し、言語で説明・回答するモデル
(認識・理解まで) - VLA:
認識・理解に加えて、行動計画を立て、実際にロボットを動かすモデル
(理解 → 実行まで)
つまり、VLMは「分かるAI」、VLAは「分かって動くAI」と整理できます。
Q4. VLAモデルはすでに実用段階に入っている技術なのでしょうか?
研究・実証段階から、限定条件下での実用フェーズに入りつつある段階です。
RT-2、Helix、π0、Gemini Robotics、Tesla Optimus など、実機ロボットでのデモや工場・倉庫での試験導入が進んでいます。
ただし、現時点では用途を絞った段階的導入が前提となります。そのため、今後数年で、適用範囲が徐々に広がっていくと考えられています。
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