自動運転や新たなモビリティサービスの社会実装に向け、政府の政策整理が本格化している。
また、デジタル庁に設置されたモビリティワーキンググループは、2025年6月に「モビリティ・ロードマップ2025」を公表し、日本におけるモビリティサービスの普及・事業化に向けた基本方針と重点施策を示した。
本記事では、日経Robotics(2025年12月10日掲載)の記事内容を引用・整理しながら、「モビリティ・ロードマップ2025」で示された政府の考え方と施策の全体像を解説する。

デジタル庁 モビリティ・ロードマップ2025
概要からわかるモビリティ・ロードマップカタログはこちら
目次[]
日本のモビリティサービス・自動運転を巡る現状と課題

日経Roboticsによれば、日本の自動運転・モビリティ分野は、次のような課題を抱えているとされる。
- 米国・中国など海外勢との技術格差の拡大
- 高コストや技術的制約により、実証実験から事業化に進めないケースの増加
- 地方部における人口減少・高齢化に伴う交通サービスの採算性悪化
特に地方では、免許返納後の高齢者などの移動需要が十分に満たされておらず、既存の交通サービスだけでは対応が困難な状況が続いている。
こうした背景を踏まえ、政府はモビリティサービスを「個別技術の導入」ではなく、「社会システムとして再設計する」必要があると位置付けている。
モビリティ・ロードマップ2025が示す3つの基本的な考え方

需給一体となったモビリティサービスの再設計
ロードマップでは、新たなモビリティサービスの普及にあたり、移動需要とサービス供給を一体で設計することが不可欠とされている。
地方では、人口減少により交通事業の効率性・採算性が低下する一方で、
通院、買い物、通学などの潜在的な移動需要が十分に掘り起こされていない状況がある。
そのため、需要と供給を別々に検討するのではなく、両者を同時に設計し、
需要増加と供給拡大の好循環を生み出す仕組みづくりが必要とされている。
また、その共通基盤として、
- 複数の交通・モビリティサービスに対する需要の分配
- 配車や運行の一元管理
を行うデジタルツールの整備が重要であることも指摘されている。
自動運転技術の実装(事業化)に向けた環境整備
日経Roboticsの記事では、自動運転導入における大きな課題として、
事業者の初期投資負担の大きさが挙げられている。
これに対しロードマップでは、以下のような環境整備を進める必要があるとしている。
- 制度的ファイナンスや公的支援を含む中長期的な資金確保
- 自動運転をインフラ側から支援する「路車協調」の推進
- 保安基準やガイドラインの具体化
- 事故発生時を想定した事故調査機関の在り方の検討
- 自動車損害賠償保障法(自賠法)における責任・損害賠償の検討
これらは、自動運転技術そのものだけではありません。制度・法制・運用面を含めた包括的な事業環境整備を目的としています。
自動運転技術の段階的導入
ロードマップでは、自動運転の導入について、地域の実情に応じた段階的アプローチを取る必要があるとされている。
自動運転技術の導入に当たっては、各地域の実情を十分に検討する必要があります。具体的には、すぐに自動運転レベル4を導入するのがよいのか、それとも、まずは自動運転レベル2の導入からはじめ、徐々に高度化・台数を増やすなどの段階的アプローチがよいのか、車種や技術、カバーすべきエリアや需要の特性等が検討事項として挙げられています。
自動運転技術の導入を進めるには、これまで実証段階で判明した課題を早急に解決するとともに、例えば、自動運転技術の事業化を先行的に行う地域(「先行的事業化地域」)を定め、それぞれの地域の特性に応じた課題に、関係各府省庁の施策を集中させることで、自動運転技術及びそれを活用したモビリティサービスの磨き上げを行い、類似の課題を持つ地域へ積極的に横展開できるような事業化モデルを構築することが必要であると考えられています。
具体的には、
- 車種
- 技術レベル
- 運行エリア
- 移動需要
といった条件を踏まえ、
- 早期にレベル4自動運転を導入するのか
- まずはレベル2から導入し、段階的に高度化するのか
を地域ごとに判断することが求められている。
また、事業化を先行して行う地域を定め、
各府省庁の施策を集中的に投入することで、横展開可能な事業モデルの構築を目指すとしている。
モビリティ・ロードマップ2025が示す新たなモビリティサービス普及に向けた重点施策

上記の基本的な考え方を踏まえ、モビリティ・ロードマップ2025では、次の3点が重点施策として掲げられている。
「交通商社機能」の確立

ロードマップでは、「交通商社機能」を以下のような役割を担うものとして定義している。
- 地域において掘り起こされていない移動需要の可視化・集約
- その需要に応える最適なモビリティサービスの企画・設計
- 関係事業者に対して具体的な実装を促す機能
この「交通商社機能」については、
- 役割や効果の共有
- ガイドラインの策定
- 共通基盤への支援
を進めることが示されている。
自動運転技術実装に向けた支援策の整備
日経Roboticsによれば、政府は官庁横断的に、次のような支援策を講じるとしている。
- 路車協調技術など必要技術の開発・普及
- 事故対応体制の整備
- 社会的受容性の向上
- 初期導入費用の低減
- 合理的な分業体制の確立と協調領域の設定
これにより、自動運転サービスの実装と普及を後押しする方針が示されている。
ターゲット別の政策集中投入
ロードマップでは、自動運転を活用しきれていないケースを以下の3類型に整理している。
- 最新技術活用型
- 運行エリア拡大型
- 技術的課題解決型
このように、それぞれにケースに対し、各府省庁の施策を集中的に投入することで、先行的な事業化とモビリティサービスの普及を図るとしている。
モビリティ・ロードマップ2025から読み解く今後の政府動向とモビリティサービスの展望

日経Roboticsの記事では、今後「モビリティ・ロードマップ2026」への改定も想定しているとされている。モビリティサービスや自動運転を取り巻く政府施策は、引き続き更新されていく見込みである。
そのため、モビリティ、自動運転、ロボティクス分野に関わる企業や自治体にとって、
政府の政策動向を継続的に把握することが重要とされている。
また、今後もモビリティ・ロードマップ2026についての情報も更新していく。
