人手不足や多品種少量生産への対応が求められる中、「協働ロボットを入れたが、思ったほど使い切れなかった」という声も少なくありません。その背景には、ロボットの自由度と現場環境とのミスマッチがあります。
特に近年注目されているのが7軸協働ロボットです。6軸協働ロボットが主流だった中で、なぜ今あらためて「7軸」が必要とされているのでしょうか。
本記事では、7軸協働ロボットの基本的な考え方から、6軸との違い、導入メリット・注意点、そして国内外メーカーの代表機種と導入事例までを、現場目線で整理します。「本当に7軸が必要なのか」「6軸では解決できない課題とは何か」を判断するための実務的なヒントとしてご活用ください。
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7軸の協働ロボットとは

7軸協働ロボットとは、一般的な6軸多関節ロボットに「もう1軸」を加えた構造を持つ協働ロボットです。
この追加された1軸は、単に可動範囲を広げるためのものではなく、同じ作業点(TCP)姿勢を保ったまま回り込みや回避動作が可能です。という点に本質的な価値があります。
6軸ロボットの場合、「この位置・この姿勢に行くための関節構成」はほぼ一意に決まります。そのため、途中に障害物があったり、設備の隙間を通過する必要がある場合、姿勢を一度崩す、もしくは工程自体を分割せざるを得ないケースが多くなります。
7軸協働ロボットが必要とされる理由
7軸協働ロボットが求められる背景には、現場環境そのものの変化があります。
近年の製造・物流・食品現場では、既存設備を大きく変えずに自動化を進めるケースが増えています。その結果、ロボットには「広いスペースで単純に動く」のではなく、「狭い空間で、人の作業に近い動きをする」ことが求められるようになりました。
7軸が有効になる代表的な理由のひとつが、狭所での回り込みです。設備や治具が密集した環境では、6軸ロボットでは腕が干渉してしまい、TCPに到達できないケースが発生します。7軸であれば、冗長軸を使って腕の構えを変えながら、同じ作業点にアプローチできます。
また、途中姿勢を保ったまま回避できる点も重要です。シーリング、塗布、研磨、はめあいといった工程では、途中で姿勢を変えること自体が品質低下につながる場合があります。7軸であれば、姿勢を維持したまま関節側で逃がす動作が可能になり、工程の安定性が高まります。
さらに、同じTCP姿勢でも関節構成を変えられることは、干渉回避だけでなく、ケーブルやホースのねじれ低減にも寄与します。これは長期運用時のトラブル防止や保全性の観点でも無視できないポイントです。
7軸協働ロボットのメリット・デメリット

以下に、メリット・デメリットをまとめています。
7軸協働ロボットのメリット
7軸協働ロボットのメリットは、単なる「動ける範囲の広さ」ではありません。
到達性が高く、干渉を避けながら姿勢を保てることで、治具設計の自由度が上がり、結果として工程をまとめられる可能性が生まれます。人手作業をそのまま置き換えたい現場では、工程設計の現実解になりやすい点が評価されています。
向いている工程は、狭所作業、力制御を伴う工程、工程集約を狙うケースです。
逆に、単純な高速搬送や姿勢固定の繰り返し作業では、必ずしも7軸が最適解とは限りません。
7軸協働ロボットのデメリット
冗長性がある分、教示や経路計画は6軸より複雑になることがあります。サイクルタイムを詰めようとすると、どの関節構成を選ぶかという設計判断が必要になります。また、本体価格や制御オプションが高くなる傾向もあります。
重要なのは、「7軸=万能」ではないという点です。
動作が単純で、干渉物が少なく、サイクルタイムが最優先される工程では、6軸協働ロボットの方が制御も簡単で、結果的に生産性が高くなる場合も少なくありません。
メーカー別 7軸協働ロボット比較
ヤマハ発動機7軸協働ロボット Yamaha Motor Cobot

ヤマハ発動機が2025年10月に発売した、国内初の7軸協働ロボットです。
人間の腕に近い7軸構造と全軸トルクセンサの搭載により、狭所への潜り込みや障害物回避といった“しなやかな”動作が可能です。DC48V専用コントローラによりAGV/AMRとの電源共用も可能で、幅広い生産現場への適用を想定しています(TÜV SÜDの機能安全認証取得見込み)。
特徴
この機種は7軸全軸にトルクセンサを内蔵し、外力を感知して自動補正するコンプライアンス制御が可能です。6軸では届きにくい狭所・回り込み・複雑な姿勢制御に強く、最大1,300mmのリーチと10kgの可搬能力により、比較的大型ワークへの対応も見込まれています。協働用途だけでなく、リスクアセスメント後は高速モードでの利用も可能です。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 軸数 | 7 |
| 可搬(kg) | 10 |
| リーチ(mm) | 1,300 |
| 繰返し精度 | ±0.04mm |
| 出典 | ヤマハ発動機 |
Flexiv社 7軸協働ロボットRizon

Flexiv社が開発する7軸協働ロボット Rizonシリーズ。7軸と高度な力制御により、人の手作業に近い柔軟な処理が可能です。
特徴
Rizonシリーズは各関節に力覚センサを備え、力に適応した動作制御が可能な点が特長です。7軸冗長性により可動域の死角が少なく、狭い空間での姿勢制御やばらつきへの追従に強みがあります。Rizon 4/4s/10 のモデルがあり、用途に応じて可搬・リーチのバランスを選べます。
| モデル | 軸数 | 可搬(kg) | リーチ(mm) | 繰返し精度(ISO9283) |
|---|---|---|---|---|
| Rizon 4 | 7 | 4 | 876 | ±0.05 mm |
| Rizon 4s | 7 | 4 | 919 | ±0.05 mm |
| Rizon 10 | 7 | 10 | 941 | ±0.05 mm |
| Rizon 10s | 7 | 10 | 984 | ±0.05 mm |
KUKA 7軸協働ロボット LBR iiwa(イーヴァ)

KUKAの代表的7軸協働ロボット「LBR iiwa」。産業分野の協働・精密工程での実績が豊富で、各軸トルクセンサによる安全・コンプライアンス制御を有します。
LBR はドイツ語で「軽量構造ロボット」、iiwa は英語で「知的能力を持った産業用作業アシスタント」を意味します。可搬重量7kgと14kgの2種類をご用意しております。
| 機種 | 軸数 | 可搬(kg) | リーチ(mm) | 繰返し精度(ISO 9283) |
|---|---|---|---|---|
| LBR iiwa 7 R800 | 7 | 7 | 800 | ±0.1 mm |
| LBR iiwa 7 R800 CR | 7 | 7 | 800 | ±0.1 mm |
| LBR iiwa 14 R820 | 7 | 14 | 820 | ±0.15 mm |
| LBR iiwa 14 R820 CR | 7 | 14 | 820 | ±0.15 mm |
| 出典 | KUKA 公式 製品ページ | (KUKA) |
Franka Emika 7軸協働ロボット Panda

Franka Emikaは、ドイツ発のロボット企業で、特に高感度で安全な7軸協働ロボットアーム「Panda」シリーズが有名です。
各関節にトルクセンサを内蔵し、外力を検知しながら動作することで、狭所での回り込みや姿勢維持が求められる作業に適しています。特に研究開発用途や精密組立、接触を伴う工程との親和性が高く、「人の作業をロボットで再現する」方向性を強く意識したロボットといえます。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 軸数 | 7 |
| 可搬重量 | 3 kg |
| リーチ | 855 mm |
| 繰返し精度 | ±0.1 mm(ISO 9283) |
国内事例から見る7軸協働ロボットの導入事例
ヤマハ発動機 袋井南工場(製造業)
ヤマハ発動機では、自社工場に7軸協働ロボットを先行導入し、多品種組立工程で検証を進めています。従来は人が体をひねりながら行っていた狭所作業を、7軸による回り込み動作で再現することで、工程集約と作業標準化の可能性が広がりました。
導入にあたっては、7軸の冗長性を活かすための動作設計が重要であり、単純に6軸の延長で考えると効果が出にくい点が注意点として示されています。
クラボウ KURAVIZON(製造・電線系)
クラボウは、7軸協働ロボットと高速3Dビジョンを組み合わせたシステムで、ワイヤやケーブルといった不定形物工程の自動化を提案しています。
狭い空間で姿勢と力を同時に制御する必要がある工程において、7軸の自由度と力制御が有効に機能しています。一方で、ビジョンと制御の調整が不可欠であり、事前検証が導入成否を分けるポイントになります。
国内研究・実験系現場(匿名)
研究機関や企業ラボでは、狭小空間での試薬操作や機器操作に7軸協働ロボットを用いた検証が進んでいます。
完全自動化ではなく、分析機器に分析対象を投入する作業の自動化を検討されています。従来人が行っていた作業を自動化することで、夜間に分析作業を行う事も可能です。また、研究員の不足が叫ばれる中、作業負担を軽減し、より高付加価値な研究に時間を充てられるようになります。
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