協働ロボットは、床面への設置だけでなく、設備上部へ取り付ける「天吊り式」で運用することもできます。
天吊りにすると、床面を空けながらワーク上面や大型ワークへアクセスしやすくなります。そのため、溶接、研磨、マシンテンディング、組立、搬送、品質検査など、さまざまな工程で活用されています。
また、第7軸と組み合わせれば、ロボット自体を移動させながら長尺ワークや複数設備を担当することも可能です。一方で、架台剛性や特異点、工具・ワークの落下、外部軸を含めた安全設計など、床置きとは異なる検討も必要になります。
本記事では、天吊り協働ロボットの仕組みや採用される理由、主な用途、国内外の導入事例、設計・安全上の注意点を解説します。あわせて、第7軸との組み合わせやUniversal Robotsが天吊り運用に適している理由についても紹介します。
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天吊り協働ロボットとは?

天吊り協働ロボットとは、ロボットのベースを設備上部へ固定し、アームを下方向へ伸ばして使うロボットシステムです。
しかし、「天吊り」と呼ばれますが、工場建屋の天井へ直接固定するとは限りません。実際には、専用の門型架台や設備フレームへ取り付ける構成が多く使われます。
上部のリニアレールへロボットを搭載する方法もあります。この構成では、ロボット自体を移動させながら広い範囲を作業できます。
天吊りでロボットを運用する背景

協働ロボットを天吊りで運用する背景には、床面の制約、大型ワークへの対応、人の作業スペースの確保があります。
既存工場では、工作機械やコンベアがすでに配置されています。さらに、作業者や台車の通路も必要です。そのため、床面にロボット架台を追加できないケースがあります。
また、造船や重工、製缶では大型・長尺ワークを扱います。床置きでは、ロボットのリーチだけでワーク全体をカバーできない場合があります。
その場合、途中でワークの向きを変えたり、ロボットの設置位置を変更したりする必要があります。そのため、溶接や研磨を一連の工程としてシームレスに行いにくくなります。
天吊り協働ロボットが使われる主な用途
天吊り協働ロボットは、溶接や研磨だけでなく、搬送や品質検査にも使われます。
用途によって、天吊りを採用する背景も異なります。
溶接
大型板金やフレームの溶接では、上方からトーチを近づけるために天吊りが使われます。作業台の中央上部へ配置すれば、左右の溶接テーブルを1台で担当する構成も可能です。床面を空けられるため、作業者によるワーク交換もしやすくなります。

研磨・サンディング
家具や板金の研磨では、広い表面へ工具を一定の姿勢で当てます。上部にロボットを配置すると、ワーク中央や上面へアクセスしやすくなります。さらに第7軸を追加すれば、固定位置から届かない範囲まで加工できます。力制御を使うことで、一定の押し付け力を保ちながら研磨する方法もあります。

バリ取り・研削
バリ取りでは、ワーク上面や外周へグラインダーなどを当てます。大型ワークでは、床置きだけでは工具姿勢が制限されるため、上方からアプローチすると、加工面に合わせた姿勢を作りやすくなります。ただし、ロボットがワークを持つ方式では、床置きの方が適するケースもあります。

マシンテンディング
マシンテンディングでは、工作機械へワークを投入し、加工後に取り出します。設備上部へロボットを配置すれば、工作機械正面の床面を空けられます。そのため、人による段取りや工具交換を行いやすくなります。第7軸を組み合わせれば、1台で複数の工作機械を担当する構成も可能です。

組立・ねじ締め
組立ラインには、コンベアや治具、部品供給機が集まります。天吊りにすると、既存の作業台を残したまま上部から部品を供給できます。ねじ締めでは、工具を上から下降させることで軸方向を合わせやすい場合があります。使用しないときにロボットを上部へ退避させれば、人も同じ作業台を利用できます。

搬送・ピック&プレース
コンベア間の搬送や部品供給にも天吊りを利用できます。床面を架台で塞がないため、作業者や物流設備の動線を残しやすくなります。複数ステーションの中央上部へ配置すれば、1台から複数方向へ搬送できます。重量物を扱う場合は、ワーク落下への対策も検討します。

天吊り協働ロボットの国内・海外事例

天吊り協働ロボットは、溶接、研磨、組立、検査などで実際に使われています。
各事例を見ると、省スペース化だけが目的ではありません。作業範囲や人の動線を改善するためにも、天吊りが選ばれています。
Samson Agro|天吊り協働ロボットによる溶接

デンマークのSamson Agroでは、農業機械の溶接に天吊り協働ロボット溶接システムを導入しています。
大型ワークへ対応するため、協働ロボットを設備上部へ配置しています。上方からアクセスすることで、限られた作業エリアでも広い範囲を溶接できる構成です。
CoWelderはUniversal Robotsの協働ロボットをベースとした溶接システムです。比較的軽量なロボットを上部へ配置することで、作業範囲を確保しながら床面を溶接作業やワーク配置に利用できます。
また、操作性も重視されています。ロボット操作の専門知識がない作業者でも扱いやすく、Samson Agroでは既存スタッフを1~2時間程度で操作教育できるとしています。
AFK Gardens|UR10eによる家具研磨

英国AFK Gardensでは、2台のUR10eを天井側へ設置しています。
先端にはMirka AIROSサンダーを搭載しています。さらにEwellix製の第7軸を追加し、家具を研磨できる範囲を広げています。
UR10eでは、力覚を利用した制御が使えます。そのため、広い作業範囲だけでなく、研磨時の押し付け力も調整できます。
サンダーと第7軸はURCapを通じて統合されています。天吊りと外部軸を組み合わせる際に、周辺機器をまとめて扱いやすい点も特徴です。
同社では、第7軸によってロボットの作業範囲を約50%拡張しています。生産性も20%向上しました。
Vitesco Technologies|UR5e+第7軸による組立
イタリアのVitesco Technologiesでは、DDUの組立ラインにUR5eを使用しています。
UR5eは、天井側に設置した第7水平軸へ取り付けられています。リニア軸上を移動しながら、部品供給と完成品の取り出しを行います。
同ラインのサイクルタイムは30秒です。第7軸を追加することで、コンパクトなUR5eの作業範囲を広げています。
また、協働ロボットの導入によってサイクルタイムを11%短縮しました。反復性や身体負担の大きい作業も70%以上削減しています。
Comprehensive Logistics|UR10による品質検査
米国Comprehensive Logisticsでは、自動車部品の品質検査にUR10を使用しています。
UR10は天井へ設置され、先端にはビジョンカメラを搭載しています。複数の検査位置へ移動して撮影し、終了後はホーム位置へ戻ります。
検査装置を床面へ追加せず、ライン上部から複数箇所を確認できる構成です。多関節ロボットを使うことで、固定カメラでは確認しにくい位置にもアクセスできます。
DCL Logistics|UR10eによるピッキング・梱包
DCL Logisticsでは、フルフィルメントセンターの商品ピッキングと梱包にUR10eを導入しています。
UR10eを上部へ設置し、2つのセルから商品をピックできる構成です。床面へロボット架台を置かず、コンベアや作業エリアを有効に使っています。
先端にはPiab製の真空グリッパーとDatalogic製カメラを搭載しています。UR10eのリーチを生かし、複数の商品位置へアクセスしながらピッキングを行います。
導入後は、生産性500%向上、労働力50%削減、3か月での投資回収、注文精度100%を実現しています。
eiliX SkyBot

「CeiliX SkyBot」は、ロボットアームそのものを天井側で移動させる構想です。
天井インフラと走行機構の下部へロボットアームやツールを搭載します。固定ロボットのように一つの場所だけを担当するのではなく、複数の作業場所へ移動できる点が特徴です。
特に、造船や重工のように大型ワークを扱う工程では、ワークをロボットセルへ移動させることが難しい場合があります。そこで、ロボット側を作業位置まで移動させる考え方が有効になります。
協働ロボットを天吊りで運用する際のポイント

協働ロボットを天吊りで運用する際は、リーチだけでなく、作業領域、工具姿勢、重心、架台剛性、第7軸、安全性まで確認します。
目的位置へ届いても、必要な工具姿勢を取れない場合があります。また、特異点の影響でベース直下を使いにくいこともあります。そのため、ロボットの設置位置は実際の動作を確認して決めます。
可搬重量については、工具とワークの合計重量だけでなく重心位置も重要です。さらに、天吊り架台には動作時の力や振動が加わるため、十分な剛性が求められます。
第7軸を使う場合は、走行軸を含めた安全設計が必要です。ケーブルやホースの垂れ下がり、干渉にも注意します。
天吊り協働ロボットに関係する安全規格
天吊り協働ロボットでも、ロボット単体ではなく、工具やワーク、外部軸、周辺設備を含めたシステム全体で安全性を評価します。
2026年時点で確認したい主な国際規格は、次の3つです。
規格 主な対象 ISO 10218-1:2025 産業用ロボット本体 ISO 10218-2:2025 ロボットアプリケーション、ロボットセル ISO/TS 15066:2016 協働ロボットシステム、協働作業環境 ISO 10218-1:2025は、産業用ロボット本体の安全要求を定めています。一方、ISO 10218-2:2025は、設備へ組み込んだロボットアプリケーションやセルを対象とする規格です。設計や統合だけでなく、運用や保守まで含めて安全性を考えます。
ISO/TS 15066:2016は、協働ロボットシステムと協働作業環境の安全要求を補足する技術仕様です。2026年時点でも現行であり、ISO 10218-1とISO 10218-2を補完する位置付けです。後継のISO/AWI 15066-1は開発中で、まだ発行されていません。
天吊りでは、ワークや工具の落下に加え、人の頭部付近でロボットが動く可能性があります。第7軸を使う場合は、走行部との挟み込みにも注意が必要です。
そのため、ロボット、EOAT、ワーク、外部軸、人の動線まで含めてリスクアセスメントを行い、必要な安全対策を決めます。
天吊り式のデメリット・導入時における注意点

天吊り式は床面を有効利用できますが、床置きより設備構造が複雑になります。
ロボットを支える架台や上部フレームが必要になり、第7軸を使う場合はリニア軸や駆動機器も追加されます。そのため、設備コストや設計工数が増える場合があります。また、照明や配管、天井クレーンとの干渉も事前に確認します。
保守性や配線にも注意が必要です。ロボットが高い位置にあるため、点検や交換時に作業台が必要になることがあります。ケーブルやホースも下へ垂れるため、アームやワークへ干渉しないように配置します。
さらに、天吊りでは工具やワークの落下リスクがあります。吸着搬送では、停電や真空低下が起きても保持できるか確認し、必要に応じて真空保持や逆止弁などを採用します。
すべての工程で天吊りが有利とは限りません。床置き、壁掛け、固定天吊り、第7軸を比較し、作業範囲や設備構成に合った設置方法を選ぶことが重要です。
天吊り式協働ロボットにおけるよくある質問

Q1. 天吊りにすると協働ロボットの可動範囲は広くなりますか?
天吊りにしても、ロボット自体の最大リーチは変わりません。
ただし、作業領域の中央上部へベースを配置できます。そのため、床置きでは届きにくいワーク上面や中央部へアクセスしやすくなります。
Q2. 天吊りにするとロボットの真下を自由に使えますか?
ロボットの真下をすべて自由に使えるわけではありません。
多関節ロボットには特異点があります。そのため、ベース直下を避けてロボット位置を設定する場合もあります。
Q3. 協働ロボットを天吊りにすれば安全柵は不要ですか?
天吊りにしても、安全柵が不要になるとは限りません。
溶接、研磨、鋭利なワーク、第7軸などには別の危険があります。アプリケーション全体でリスクアセスメントを行います。
Q4. 天吊り協働ロボットには第7軸が必要ですか?
固定位置から必要な範囲へ届く場合、第7軸は必要ありません。
一方、長尺ワークや複数設備を1台で担当する場合には有効です。必要なストロークやサイクルタイムから採用を判断します。
Q5. Universal Robotsが天吊り運用に向いている理由は何ですか?
Universal Robotsは、軽量な本体と長いリーチを組み合わせやすい協働ロボットです。
任意方向への設置や力制御、外部軸との連携にも対応します。例えばUR8 Longは、1,750mmのリーチに対して本体重量44.7kgです。
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