キーエンスは2026年11月2日、PLC専用AIエージェント「KV Intelligence」を発表しました。同年11月16日に発売する予定です。生成AIを活用し、ラダープログラムの自動生成、不具合原因の解析、既存プログラムの要約を支援します。
KV Intelligenceは、PLC開発ソフト「KV STUDIO」と連携して動作します。自然言語による指示に加え、PLCの動作記録や製品マニュアルを活用できる点が特徴です。
本記事では、KV Intelligenceの機能と導入条件を解説します。さらに、従来のPLC開発における課題と、国内外の主要メーカーの開発動向を整理します。
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キーエンス「KV Intelligence」とは?

KV Intelligenceは、キーエンスのPLC開発ソフト「KV STUDIO」から起動するAIエージェントです。PLCのプログラムや動作記録、メーカーの技術資料を参照し、設計・デバッグ業務を支援します。
主な機能は「ディープデバッグ」「ラダー自動生成」「ビジュアル要約」の3つです。プログラムの新規作成から設備立ち上げ時の不具合解析、既存設備の改造までを支援対象としています。
汎用的な生成AIとの違いは、PLCの開発環境や過去の動作データと連携できる点にあります。生成したプログラムをKV STUDIOへ挿入できるほか、ドライブレコーダの記録も解析に利用します。
一方、AIがPLC本体の制御を直接担う仕組みではありません。生成AIはクラウドを利用し、設備のリアルタイム制御は従来どおりPLCが実行します。
PLC開発における従来の課題

PLC開発は、プログラムの作成だけでなく、既存設備の改造やデバッグにも工数を要します。設備の高度化に伴い、制御プログラムも複雑になっています。そのため、一部の条件変更がほかの動作に与える影響を把握することが難しくなっています。
設備トラブルへの対応も課題です。センサのチャタリングや機器間の信号タイミングのずれは、必ずしも再現するとは限りません。原因を特定するには、トレースデータやアラーム履歴の確認が必要です。特に、複数の機器が連携する設備では、異常発生前後の信号変化を追う作業に時間がかかります。
また、既存プログラムの解析には熟練技術者の知識が欠かせません。設計意図や変更履歴が十分に記録されていない場合、後任者による改造や保守が難しくなります。担当者の異動や退職に伴う技術継承も、製造現場が抱える課題の一つです。
こうした背景から、PLCの開発環境に生成AIを組み込む動きが進んでいます。プログラムの作成だけでなく、過去の制御データを解析し、不具合調査や保守作業を支援する技術も登場しています。
KV Intelligenceの主な機能

ディープデバッグ|動作記録から不具合原因を解析
ディープデバッグは、KV-XシリーズのドライブレコーダとAIを組み合わせた解析機能です。過去の変数やデバイス値、イベント履歴を参照し、正常時と異常時の動作を比較します。
AIはセンサのON/OFF時間やカウント値の差などを検出します。その結果をもとに、異常箇所と原因候補を優先度付きで提示します。プログラムの論理構造だけでなく、実際の信号変化を踏まえた解析が可能です。
例えば、設備停止の原因を自然言語で質問すると、記録データからセンサのチャタリングなどを原因候補として抽出します。また、自然言語による指示をもとに記録を実行する「AIトリガ」にも対応しています。
従来のドライブレコーダは、技術者が記録を確認して原因を調査する仕組みでした。これに対し、ディープデバッグはデータ解析と原因候補の抽出まで支援します。過去の動作記録を活用し、不具合原因の絞り込みを効率化する機能です。
ラダー自動生成|自然言語から制御プログラムを作成
動作内容を自然言語で指示し、PLCの制御プログラムを生成する機能です。ラダー言語に加え、ST(Structured Text)言語にも対応しています。
例えば、「原点復帰後、指定位置へ移動し、完了するまで待機」と入力すると、位置決めプログラムを生成します。条件分岐や演算、文字列処理、センサ通信なども対象です。さらに、変数や構造体の定義、コメントも自動生成できます。
PLCのマニュアルやキーエンス製センサの接続ガイドも参照できます。そのため、機器固有の命令や設定を踏まえたプログラム作成が可能です。通信やモーション制御、データ収集など、KV-Xシリーズの機能を活用した処理にも対応しています。
生成したプログラムはKV STUDIOへ挿入でき、AIによる検証機能も備えています。ただし、設備固有のインターロックや異常処理については、設計者による確認が必要です。
ビジュアル要約|既存プログラムを可視化
ビジュアル要約は、既存のPLCプログラムを解析する機能です。システム構成図や動作フローチャート、各処理の要約を生成します。
解析結果はHTML形式で出力できます。また、要約内容をプログラムのコメントやブックマークにも反映できます。設計資料が不足している設備でも、制御ロジックの全体像や処理の流れを把握しやすくなります。
さらに、プログラムレビューにも対応しています。位置決め処理のエラー対応漏れや、センサ通信のタイムアウト未設定などを検出し、修正理由や改善案を提示します。
新規設計だけでなく、既存設備の改造や保守、プログラムの引き継ぎにも活用できます。
KV Intelligenceの対応PLC・動作環境

KV Intelligenceは、キーエンスのKV-Xシリーズに対応します。対象となるCPUはKV-X550、KV-X530、KV-X520、KV-X500の4機種です。
開発ソフトはKV STUDIO Ver.13以降、対応OSはWindows 11(64bit)です。クラウドを利用するため、インターネット接続が必要となります。通信にはTLS 1.2以上を使用し、プロキシ経由の接続にも対応しています。
KV-Xシリーズの実機がなくてもAI機能は使用できます。一方、実設備の不具合解析には、ドライブレコーダによる記録データが必要です。
ライセンスはLite版とPro版の2種類です。Lite版は1ライセンス、Pro版は1・3・10ライセンスから選択できます。契約期間はいずれも1年間で、Pro版はLite版より使用量上限が高く設定されています。
また、Pro版の3・10ライセンスでは、登録した使用者を変更できます。価格についてはメーカーへの問い合わせが必要です。
PLC向けAIエージェント、各社が開発を加速

PLC開発への生成AI導入は、国内外のメーカーで進んでいます。ただし、各社の開発方針には違いがあります。既存プログラムの再利用を重視するメーカーもあれば、設計工程全体の自動化を進めるメーカーもあります。
オムロン|既存プログラムの検索・再利用を支援
オムロンは2026年9月29日、生成AIを活用した設計支援ソフト「CX-One Agent」を発表しました。同年11月4日からトライアル提供を開始しています。
CX-One Agentは、PLC開発ソフト「CX-One」と連携します。過去のプログラム資産や技術資料を自然言語で検索し、必要な情報を抽出します。また、プログラムの要約やフローチャートによる可視化にも対応しています。
既存プログラムの流用や改造を効率化できる点が特徴です。オムロンの評価事例では、流用候補の特定に要する期間を2週間から4日に短縮しています。
キーエンスがプログラム生成や不具合解析まで幅広く対応するのに対し、オムロンは既存資産の活用を重視しています。特に、過去のプログラムの検索・解読・再利用を主な支援対象としています。
シーメンス|PLC・HMIの設計工程をAIで自動化
シーメンスは2024年、生成AIを活用した「Industrial Copilot」を発表しました。PLC開発ソフト「TIA Portal」と連携し、コード生成やHMI設計などを支援します。
さらに2026年4月には、「Eigen Engineering Agent」の一般提供を開始しました。AIによる提案にとどまらず、複数の設計工程を実行する仕組みへと発展しています。
Eigen Engineering Agentは、PLCプログラムやHMIの作成、機器設定などを支援します。生成結果を顧客の設計基準に照らして検証し、必要に応じて修正を繰り返します。
シーメンスによると、19か国の100社以上で試験導入を実施しました。さらに2026年6月には、電気設計データとの連携機能も追加しています。
コードの提案から設計工程の実行へと、AIの役割を広げている点が特徴です。
ベッコフ|PLC設計から設備保全まで支援
ベッコフは、TwinCATの開発環境に生成AIを統合する「TwinCAT CoAgent」を展開しています。
開発支援向けの「TwinCAT 3 CoAgent for Engineering」は、PLCコードの提案や最適化を支援します。また、I/O構成やHMI設計、技術資料の検索にも対応しています。既存プロジェクトの構造やライブラリを考慮できる点が特徴です。
さらに、運用・保守向けの「TwinCAT 3 CoAgent for Operations」も開発しています。稼働データやアラーム情報を利用し、設備診断や保守作業を支援する仕組みです。
複数の大規模言語モデル(LLM)を利用できる構成も採用しています。クラウドに加え、ローカル環境での利用も想定しています。
ベッコフは、PLCの設計から稼働後の設備保全までをAIの支援対象としています。
ロックウェル|クラウド型PLC開発環境に生成AIを統合
ロックウェル・オートメーションは、クラウド型PLC開発環境「FactoryTalk Design Studio」に生成AIを組み込んでいます。
搭載するCopilotは、既存コードの説明や技術情報の検索を支援します。また、コントローラやI/O機器の追加、設定変更にも対応しています。自然言語による指示を開発環境内の操作につなげる仕組みです。
さらに、コード生成などのAI支援も強化しています。クラウド上での設計やプロジェクト管理と組み合わせ、開発業務の効率化を図っています。
一方、安全関連のPLCコードや機器設定には制限があります。Copilotは安全関連の内容を説明できますが、変更することはできません。
三菱電機|ラダー生成AIで技術継承を支援
三菱電機も、自然言語からラダープログラムを生成する技術を開発しています。
2025年11月の「IIFES 2025」では、開発中のラダー生成AIを参考展示しました。仕様書から新規プログラムを生成するほか、既存プログラムの改造にも対応する構想です。
入力した仕様に基づいてラダープログラムを作成し、フローチャートや説明文も出力します。また、既存プログラムと修正指示を与えることで、変更後のプログラムを生成する仕組みも開発しています。
同社が重視するのは、過去に蓄積されたプログラム資産の活用です。熟練技術者の減少に伴い、制御ロジックの継承が課題となっています。そのため、生成AIによる設計・保守業務の効率化を目指しています。
この技術は開発段階にあり、2026年11月4日時点では一般販売された製品として確認できていません。
PLC向けAIエージェントの導入課題
PLC向けAIエージェントの導入では、プログラムの生成精度だけでなく、検証体制も重要です。AIが生成したプログラムは、構文上正しくても設備仕様を満たすとは限りません。特に、インターロックや異常復旧処理は、設備の安全性や安定稼働に関わります。そのため、設計者による確認や実機での動作検証は引き続き必要です。
また、クラウド型AIを利用する場合は、制御プログラムや設備情報の取り扱いにも注意が必要です。送信データの範囲や保存条件、アクセス権限などを確認し、工場ネットワークのセキュリティ方針と整合させる必要があります。
さらに、現状のAI支援機能は、各メーカーの開発環境やPLCに依存しています。複数メーカーの制御機器を使用する現場では、対応機種やプログラムの互換性が導入判断に影響します。
PLC向けAIエージェントに関するよくある質問

KV Intelligenceは既存のキーエンスPLCでも使用できますか?
KV Intelligenceが対応するCPUは、KV-X550、KV-X530、KV-X520、KV-X500の4機種です。従来のKVシリーズすべてに対応しているわけではありません。
また、開発環境にはKV STUDIO Ver.13以降が必要です。対応CPUの実機がなくてもAI機能は利用できますが、動作記録を使ったデバッグには対象PLCの記録データが必要です。そのため、既存設備への導入ではCPUの型式と開発環境を確認する必要があります。
KV Intelligenceの利用にインターネット接続は必要ですか?
KV Intelligenceはクラウド上の生成AIを利用するため、インターネット接続が必要です。通信にはTLS 1.2以上を使用し、プロキシ経由の接続にも対応しています。
ただし、PLC本体をインターネットに直接接続することが必須という意味ではありません。AIを利用する開発PCの通信環境が重要になります。そのため、工場内のネットワーク分離やセキュリティ方針を踏まえた接続構成の検討が必要です。
AIが生成したラダープログラムはそのまま設備で使用できますか?
KV Intelligenceで生成したラダープログラムは、KV STUDIOへ直接挿入できます。また、プログラムの生成時にはAIによる検証機能も利用できます。
一方、生成結果が設備固有の仕様や安全要求をすべて満たすとは限りません。特に、インターロック、異常停止、復旧処理などは設備全体の動作に関わります。そのため、実設備への適用前には、設計者によるプログラム確認と動作検証が必要です。
PLC向けAIエージェントと従来の生成AIは何が違いますか?
主な違いは、PLCの開発環境や制御データとの連携です。汎用的な生成AIでも制御プログラムの作成や解説は可能です。しかし、開発環境との連携には別途仕組みが必要となる場合があります。
これに対し、KV IntelligenceはKV STUDIOと連携し、プログラムの生成・解析を支援します。さらに、PLCの動作記録や製品マニュアルも参照できます。そのため、コード生成だけでなく、不具合原因の調査や既存プログラムの解析にも対応しています。
PLC向けAIエージェントは設備の自動運転にも使用できますか?
KV Intelligenceは、PLCのプログラミングやデバッグを支援するソフトウェアです。設備のリアルタイム制御をAIが直接実行する仕組みではありません。
例えば、自然言語から設備の動作プログラムを生成できます。しかし、生成したプログラムを使って機械を動作させるのはPLCです。そのため、AIによる開発支援と設備の自律制御は区別する必要があります。
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