超音波探傷は、材料や製品を壊さずに内部のきずを調べる検査方法です。
一方、広い範囲や多数の検査点を手作業で測定する場合、検査時間や作業者の負担が大きくなります。探触子の位置や角度、押し付け方によって、測定結果に差が生じることもあります。
こうした課題に対応する方法が、超音波探傷の自動化です。スキャナーやロボットを使用し、探触子の走査、検査データの取得、記録、解析を自動化します。
近年は、フェーズドアレイUTや協働ロボット、AI解析を組み合わせた検査システムも開発されています。
本記事では、超音波探傷を自動化する背景やメリット、導入時の課題、実際の活用事例について解説します。
目次[]
超音波探傷の自動化とは

超音波探傷の自動化とは、探触子の走査や検査データの取得、記録、解析を機械やソフトウェアで行うことです。
背景には、検査員不足、技能継承、検査結果のばらつき、全数検査への対応があります。高所や狭所など、作業負担の大きい場所での安全確保にも有効です。
近年は、スキャナーやロボットに加え、フェーズドアレイUTやAI解析の活用も進んでいます。検査員を完全に置き換えるのではなく、走査や記録を自動化し、判定を支援する方法として導入されています。
超音波探傷の自動化が求められる背景

検査結果のばらつきを抑えるため
手動の超音波探傷では、検査員が探触子を持って対象物の表面を走査します。
このとき、探触子の位置、角度、移動速度、押し付け力などが測定結果に影響します。接触媒質の量や対象物の表面状態によっても、反射波の大きさが変化します。
経験を積んだ検査員であっても、広い範囲を同じ条件で繰り返し走査することは容易ではありません。
スキャナーやロボットを使用すれば、走査経路や速度を一定にできます。同じ位置を再び測定しやすくなるため、検査結果の再現性向上につながります。
広範囲の検査を効率化するため
厚板、タンク、船体、航空機部品などは、検査面積が大きくなります。
自動車のスポット溶接のように、検査点が多数存在する対象もあります。これらを手作業で検査すると、検査工程が生産のボトルネックになる可能性があります。
自動走査では、一定の間隔で連続的にデータを取得できます。複数の探触子やロボットを同時に使用すれば、さらに処理能力を高められます。
高所や狭所での作業を減らすため
プラント、タンク、配管、船舶などの検査では、高所や狭い場所へ検査員が入る場合があります。
検査そのものに加えて、足場の設置、保温材の撤去、設備停止などが必要になることもあります。
走行ロボットや遠隔操作ロボットを利用すれば、検査員が危険な場所へ接近する時間を減らせます。三菱重工業では、高放射線環境にある蒸気発生器のノズル溶接部を、遠隔操作で検査するロボットを実用化しています。
検査データを記録しやすくするため
手動検査では、代表的な波形や検査結果だけを記録する運用もあります。
自動探傷では、波形や画像に位置情報を付けて保存できます。どの製品のどの位置を、どの条件で測定したかを追跡しやすくなります。
検査履歴を蓄積すれば、同じ箇所の経年変化も比較できます。製造条件と検査結果を関連付け、品質傾向を分析することも可能です。
フェーズドアレイUTと自動化の関係

フェーズドアレイUTは、自動走査装置そのものではありません。
複数の振動素子を電子制御し、超音波ビームを走査、偏向、集束する探傷技術です。
フェーズドアレイ探触子は、次のような装置に搭載できます。
- 手動スキャナー
- エンコーダー付きスキャナー
- 固定式検査ライン
- 産業用ロボット
- 走行ロボット
- ガントリー式装置
通常の単一探触子と比べて、多数の角度や位置から測定できます。そのため、機械的な走査回数を減らせる可能性があります。
一方、法則設定や校正、素子の健全性確認など、管理する項目は増加します。取得するデータ量が多いため、保存方法や解析方法も検討しなければなりません。
ISO 13588:2019は、金属材料の溶接部に対する半自動・全自動フェーズドアレイUTを対象としています。ただし、きずの合否レベルそのものは規定していません。
ISO 18563-3:2024は、フェーズドアレイ探傷器と探触子を組み合わせたシステムの動作確認を扱います。
特定用途への適合性や機械走査装置の性能については、対象製品や検査手順に応じて確認する必要があります。
超音波探傷を自動化するメリット

超音波探傷を自動化すると、検査条件を統一しやすくなります。
また、検査範囲や測定結果をデータとして残せるため、検査漏れの防止や品質管理にも活用できます。
同じ条件で繰り返し検査できる
ロボットやスキャナーは、設定した経路、速度、角度を繰り返せます。
検査員ごとの差を抑えやすくなり、同じ製品や同じ場所の再検査にも対応しやすくなります。
ただし、ロボットの繰り返し精度だけで検査性能は決まりません。
ワークの固定位置や探触子の摩耗、接触媒質、表面状態なども含めて管理する必要があります。
検査した範囲を記録できる
探触子の位置情報と波形を同期すれば、検査した範囲を確認できます。
検査漏れを防ぎやすくなるほか、きずの候補位置を対象物の座標上へ表示することも可能です。
検査員の負担を減らせる
広範囲の走査や、同じ動作の繰り返しを機械へ任せられます。
検査員は、校正や異常データの確認、原因分析など、専門性が必要な作業へ集中できます。
高所や狭所へ入る回数を減らせる場合は、安全性の向上にもつながります。
品質データを活用できる
製品番号、検査位置、波形、画像、判定結果を関連付けて保存できます。
製造条件と検査結果を比較すれば、特定の設備や工程で発生する異常傾向を把握できる可能性があります。
不良の発見だけでなく、製造工程の改善や予防保全へ活用できる点も、自動化のメリットです。
超音波探傷を自動化する際の課題

超音波探傷は、探触子をロボットで移動させるだけでは安定しません。
対象物との接触状態や位置ずれ、判定方法まで含めて検討する必要があります。
接触状態を安定させる必要がある
自動化で重要な条件の一つが、探触子と対象物の接触状態です。
押し付け力が弱いと、超音波が対象物へ十分に伝わりません。強すぎる場合は、探触子や対象物が摩耗する可能性があります。
曲面や段差がある対象では、探触子の角度も変化します。
そのため、次のような機構を使用して表面へ追従させます。
- 力制御機構
- ばね機構
- 首振り機構
- フローティング機構
- 曲面に合わせた探触子ホルダー
接触媒質を使用する場合は、供給量や塗布範囲、回収方法も検討が必要です。
ワークの位置ずれに対応する必要がある
ロボットが正確に動いても、対象物の位置が毎回異なれば、正しい場所を検査できません。
基本的には、治具を使用して対象物の位置と姿勢を固定します。
位置決めだけでは対応できない場合は、次の方法でワーク座標を補正します。
- カメラによる位置認識
- レーザーセンサーによる形状測定
- 接触検出による基準位置の確認
- 3Dセンサーによる表面形状の取得
対象物の公差や変形量を確認し、必要な補正精度を決めることが重要です。
自動判定の適用範囲を決める必要がある
明確な合格品と不合格品は、自動判定しやすい場合があります。
一方、合否境界付近の信号や、事前に想定していない波形は、人による判断が必要です。
自動判定では、次の状態を分けて管理します。
| 状態 | 主な対応 |
|---|---|
| きずの候補 | 規格に基づく評価や再走査を行う |
| 測定不成立 | 接触状態や測定条件を修正して再測定する |
| 判定不能 | 有資格者が確認するか、別方式で再検査する |
特に重要なのは、測定不成立を合格として処理しないことです。
信号の欠落や接触不良を検知し、再測定や作業者確認へ移行する仕組みが必要です。
導入前に検査能力を検証する必要がある
装置メーカーが示す位置精度や走査速度だけでは、必要なきずを検出できるか判断できません。
実際の製品に近い試験体を使用し、次の項目を確認します。
- 想定する最小きずを検出できるか
- きずの方向が変わっても検出できるか
- 表面状態の影響を受けないか
- 走査速度を上げても信号を取得できるか
- 同じきずを繰り返し測定できるか
- 正常な形状をきずと誤認しないか
- 手動検査や破壊試験と結果が一致するか
自動化のPoCでは、ロボットが動くことだけを確認しても十分ではありません。
必要な検出性能を、実際の生産条件で繰り返し再現できるかを確認することが重要です。
超音波探傷の自動化事例
複雑な形状の部品をフェーズドアレイ検査

Universal Robots製の協働ロボットとフェーズドアレイ超音波探傷装置を組み合わせて検査も可能です。
ロボットの先端に超音波探触子を取り付け、対象物の表面に沿って走査します。ロボットの位置情報と超音波データを同期することで、きずの位置や検査範囲を記録できます。
フェーズドアレイUTに加え、FMCやTFMなどの解析方法にも対応しています。取得したデータは、断面画像や平面画像、3D画像として表示できます。
また、力覚センサーを使用し、探触子を一定の力で対象物へ押し当てる研究も行われています。ロボットの動きを表面形状に合わせて補正することで、曲面や複雑な溶接部を検査する仕組みです。
協働ロボットを使用するため、固定式の専用装置と比べて設置場所や走査経路を変更しやすく、多品種の検査にも対応しやすい点が特徴です。
航空機などの非破壊検査をUR5eで自動化

協働ロボット「UR5e」と検査装置を組み合わせた自動化システムです。
航空機の検査では、探触子を機体表面に沿って動かし、亀裂、腐食、剝離、層間剝離、溶接部の不連続などを確認します。大型航空機は検査範囲が広く、作業者が長時間にわたって探触子を操作する必要があります。
そこで、UR5eに探触子を取り付け、検査位置への移動や走査を自動化しています。一定の経路、角度、速度で探触子を動かすことで、測定条件のばらつきを抑え、同じ範囲を繰り返し検査しやすくなります。
作業者は、反復的な走査作業から離れ、検査条件の調整や取得データの分析に集中できます。不自然な姿勢での作業を減らし、身体的な負担を軽減できる点も導入の目的です。
探触子やプログラムを変更すれば、金属や複合材料など、異なる対象物にも対応できます。協働ロボットを専用の検査機としてではなく、検査装置を柔軟に動かすためのプラットフォームとして活用している事例です。
スポット溶接部の超音波探傷を自動化

協働ロボットを使用して溶接部を超音波で検査するシステムが開発されています。
協働ロボットが探触子を溶接位置へ移動させ、一定の角度と押し付け力で測定します。
接触媒質の供給、超音波測定、検査結果の記録までを自動化できます。ロボットと検査装置を台車へまとめれば、試作工程、手直し工程、製造ラインなどへ移動して使用できます。
検査位置と測定結果を関連付けて保存できるため、品質傾向の確認やトレーサビリティにも活用できます。
JFEスチール|厚鋼板を自律走行するUT-Robot

JFEスチールは、厚鋼板のオフライン超音波探傷を自動化するUT-Robotを開発しています。
作業者がロボットを鋼板上へ設置すると、ロボットが自己位置を認識します。その後、検査経路の計算、走査、合否判定、結果出力までを自動で行います。
装置はバッテリーで走行し、1人で運搬できる大きさです。同じ検査エリアで複数台を同時に運転できます。
同社の東日本製鉄所京浜地区では、3台が自動運転されています。
この事例は、固定式の自動探傷ラインと手動検査の間を補う方法です。大規模なライン改造を行わず、検査対象の場所へ装置を持ち込める点が特徴です。
ABB|自動車のスポット溶接部をロボットで検査

自動車のスポット溶接部を超音波で検査する工程を6軸ロボットで行います。
ロボットが検査位置へ移動し、スポット溶接部へ探触子を当てます。測定結果は記録され、品質傾向の分析やトレーサビリティにも利用できます。
手動検査と比較して処理能力を最大10倍にでき、1打点当たりの検査時間は、約3.5~6秒です。
自動車では多数の溶接点があるため、1点当たりの測定時間だけでなく、車種変更、ロボットの移動、接触媒質の供給、再検査を含めたサイクルタイムで評価する必要があります。
大型航空機部品を2台のロボットで検査

航空機の胴体、翼、構造部品などを産業用ロボットで検査しています。
2台の産業用ロボットが、協調または個別に動作します。7種類のセンサーと複数の検査方法を切り替え、最大約200フィートの複合材部品を検査します。
従来方式より検査時間を最大40%短縮できる場合があります。固定式の代替設備と比較すると、約半分のコストで構築。
大型の専用設備ではなく、ロボットと交換式センサーを検査プラットフォームとして使用している点が特徴です。新しい部品へ対応する場合は、経路やセンサー構成を変更できます。
超音波探傷の自動化を進める手順

超音波探傷の自動化は、最初から無人検査を目指すのではなく、走査、記録、判定の順に対象範囲を広げることが重要です。
まず、検査時間、段取り時間、再検査率、検査員数など、現在の工程を数値で把握します。そのうえで、検出するきずの種類や大きさ、検査範囲、合否基準、適用規格を明確にします。
次に、エンコーダー付きスキャナーやロボットを使用し、探触子の走査と位置情報の記録を自動化します。初期段階では、取得した波形の評価を検査員が行う構成にすると、導入時の検証項目を抑えられます。
運用を安定させるには、接触不良、気泡、探触子の浮きなどによる測定不成立を検出する仕組みも必要です。正常な測定ができなかった場合は、接触媒質の再供給や再走査を行います。
十分な検査データが蓄積された後は、きず候補の抽出や寸法測定などの判定支援を追加します。ただし、合否の境界にある信号や未知の波形は、自動判定せず、有資格者が確認できるようにします。
検査結果の保存、不合格品の搬出、再検査の指示まで連動させることで、超音波探傷を品質管理工程へ組み込めます。
超音波探傷の自動化に向いている対象

自動化の効果が出やすいのは、次のような工程です。
- 同じ形状の製品を繰り返し検査する
- 検査範囲が広い
- 検査点数が多い
- 一定の経路で走査できる
- 高所や狭所で作業している
- 検査記録の作成負担が大きい
- 全数検査が求められる
- きずの流出コストが高い
一方、検査数が少なく、対象形状が毎回大きく変わる場合は、専用の自動設備が適さないことがあります。
このような工程では、手動検査を残しながら、エンコーダー、データ保存、報告書作成だけをデジタル化する方法もあります。
超音波探傷の自動化はなぜ協働ロボットが選ばれるのか?

超音波探傷では、探触子を対象物へ当てながら一定の経路で走査します。これを協働ロボットに行わせることで、探触子の移動、測定、記録を自動化できます。
協働ロボットは、探触子の位置、角度、移動速度を一定に保ちやすい点が特徴です。力制御を組み合わせれば、対象物への押し付け力も調整できます。作業者による測定条件の違いを抑え、同じ箇所を同じ条件で繰り返し検査しやすくなります。
また、比較的省スペースで設置できるため、既設設備の周辺にも導入できます。大型の専用検査装置を構築せず、探触子や走査プログラムを変更して、複数のワークへ対応することも可能です。アームを直接動かして位置を登録できる機種では、検査経路の教示や修正も行いやすくなります。
協働ロボットと超音波探傷装置を台車へ搭載すれば、移動式の検査設備として使用できます。固定式装置へ搬送しにくい大型部品や設備に対して、検査システム側を移動させる運用が可能です。AGVやAMRへ搭載し、工場内の複数箇所を巡回させる構成も考えられます。
一方、安定した検査には、探触子を動かすだけでなく、対象物の位置補正、押し付け力の制御、接触媒質の供給、ロボット位置と検査データの同期が必要です。曲面や段差のある対象物では、探触子を表面へ追従させる機構も検討します。
iCOM技研による導入サポート|超音波探傷の自動化導入の「壁」を取り除く


超音波探傷の自動化では、ロボットやスキャナを選ぶだけでは十分ではありません。対象物の形状や検出したいきずに合わせて、探触子の姿勢、押付け力、走査経路、カプラント供給などを設計する必要があります。
協働ロボットの導入に不安がある方でも、iCOM技研による以下のサポート体制で安心です。
- 使用目的に合ったモデル選定のコンサルティング
- 導入前の実機デモ・テストで効果を可視化
- ロボット操作教育、安全指導まで含めた現場立ち上げ支援
- ロボットシステム全体の提案(ハンドツール選定)
弊社では協働ロボットを中心とした様々なメーカーを取り扱っております。また、最適なロボット選定からシステム開発・立ち上げまで一貫してご支援可能です。
超音波探傷の自動化に関するお問い合わせ・相談お待ちしております。
「自社にも自動化を」とお考えの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
