薄いフィルムや半導体ウエハ、ガラス基板を搬送する際、一般的な吸着パッドではワークが変形したり、表面に吸着痕が残ったりする場合があります。
穴や凹凸があるワークでは、吸着面を密閉できず、必要な真空圧を維持できないこともあります。割れやすい食品や薄い電子部品では、パッドの接触が品質へ影響する可能性もあります。
こうしたワークの搬送に使用される機器が、圧縮空気の流れを利用する「ベルヌーイチャック」です。ワークとの接触を抑えながら保持できるため、半導体、ガラス、フィルム、電子部品、食品などに利用されています。
本記事では、ベルヌーイチャックの仕組み、真空吸着との違い、主な用途や種類を解説します。製品選定と実機テストで確認したいポイントも紹介します。
目次[]
ベルヌーイチャックとは

ベルヌーイチャックとは、圧縮空気をワーク表面の近くへ高速で流し、チャックとワークの間に生じる圧力差を利用して保持する機器です。
一般的な真空吸着パッドのように、パッド内部を減圧してワークへ密着させる方式ではありません。チャックから空気を吹き出し、ワークとの間に薄い空気層を形成します。
製品によって、次のような名称が使われています。
- ベルヌーイチャック
- ベルヌーイグリッパ
- ベルヌーイ吸着ハンド
- 非接触チャック
- 非接触パッド
- 非接触グリッパ
名称が似ていても、内部の流路、ノズル形状、旋回流の有無、横ずれ防止機構などは異なります。製品名だけで判断せず、構造と対象ワークを確認することが重要です。
「非接触」とは限らない

ベルヌーイチャックは、非接触チャックとして扱われることがあります。ただし、すべての部品がワークへ接触しないとは限りません。
チャック本体とワークの保持面には、わずかなすき間が形成されます。一方、横ずれや回転を防ぐガイド、ストッパー、リング、摩擦材などが接触する製品もあります。
例えば、半導体ウエハ向けには、チャック面を接触させず、外周だけをPEEK製ガイドで支える構成があります。軽量ワーク向けには、ゴム製ストッパーや滑り止めを備えた製品もあります。
完全な非接触搬送が必要な場合は、次の点を確認してください。
- チャック本体が品質管理面へ接触しないか
- ガイドがワークの端面へ接触するか
- ストッパーや滑り止めが表面へ触れるか
- 接触部の材質が傷や汚染の原因にならないか
保持面だけでなく、位置決めや落下防止の方法まで含めて評価する必要があります。
ベルヌーイチャックの仕組み

ベルヌーイチャックは、チャックとワークの間を流れる空気の速度と圧力の関係を利用します。
保持までの基本的な流れは、次のとおりです。
- チャックへ圧縮空気を供給する
- 内部のノズルや溝から空気を噴出する
- チャックとワークの狭いすき間へ空気が流れる
- 流速が高い領域の静圧が低下する
- 周囲との圧力差でワークが引き寄せられる
- 空気の流れと圧力差がつり合う位置で保持される
流れが速い場所では静圧が低くなるという関係を、ベルヌーイの定理と呼びます。
ただし、実際の保持性能は、ベルヌーイの定理だけでは決まりません。空気の粘性や圧縮性、ノズル内部の圧力損失、排気方向、ワークのたわみなども影響します。
ワークがチャックへ密着しない理由
チャックとワークの間では、供給された空気が外周へ流れ続けます。
ワークがチャックへ近づくと、空気の通り道が狭くなり、ワークを押し戻す力が変化します。適切な条件では、引き寄せる力と押し戻す力がつり合い、わずかなすき間が保たれます。
SMC ZNCシリーズの平滑で硬く、空気を通しにくいワークに対する代表値は、0.2~0.5mm付近です。
この数値はZNCシリーズの条件に限られます。実際のすき間は、製品の構造、供給圧力、流量、表面状態、通気性によって変わります。
ノズルと流路が保持状態を左右する
ベルヌーイチャックは、空気を強く吹き付ければ保持力が高くなるとは限りません。
ノズルの位置や角度、流路の幅、外周部の形状によって、チャック面の圧力分布が変わります。ノズル付近に高い正圧が発生すると、ワークを引き寄せる力が弱くなる場合があります。
ウエハ向けの構造には、複数の流出口をリング状に配置し、一点へ力が集中しにくくしたものがあります。薄いワークでは、最大保持力だけでなく、変形や振動を抑えられる圧力分布が重要です。
横方向の保持力は小さくなりやすい
ベルヌーイチャックの主な保持力は、ワークをチャック側へ引き寄せる方向に働きます。ワークを横から挟む力は、基本的に発生しません。
チャック本体が接触しない構成では、摩擦による横方向の拘束も小さくなります。搬送装置の加速、減速、旋回によって、ワークがずれたり回転したりする可能性があります。
横方向の移動を抑える方法には、次のようなものがあります。
- ワーク端面を支えるガイド
- ゴム製や樹脂製のストッパー
- 滑り止め部材
- ワーク形状に合わせた位置決め枠
- 複数チャックによる分散保持
実際の搬送機構では、圧力差による保持と機械的な横ずれ防止を組み合わせる場合があります。
ベルヌーイチャックの主な用途

ベルヌーイチャックは、薄い、割れやすい、接触を抑えたいといった特徴を持つワークに使用されます。
密閉しにくい形状や、局所的な吸着力を避けたいワークにも適用できる場合があります。
| 対象ワーク | 使用される主な理由 | 主な注意点 |
| 半導体ウエハ | 接触痕、傷、パーティクルを抑えやすい | 反り、厚さ、ガイド接触 |
| ガラス基板 | 表面接触と局所荷重を抑えやすい | 割れ、たわみ、落下 |
| 太陽電池セル | 薄く割れやすいセルを保持しやすい | 振動、反り、停止時の揺れ |
| フィルム・シート | 局所的なしわや変形を抑えやすい | 振動、垂れ下がり |
| プリント基板 | 穴や実装部品があっても適用できる場合がある | 部品との干渉、エアの吹き付け |
| 食品・多孔質材 | 真空パッドで密閉しにくい形状に対応しやすい | 衛生性、エア品質、洗浄 |
半導体ウエハ

半導体ウエハは、表面の傷やパーティクルを抑えながら搬送する必要があります。薄いウエハでは、局所的な力によるたわみや割れも問題になります。
ベルヌーイチャックは、ウエハ表面へパッドを密着させず、空気層を介して保持します。外周だけを樹脂製ガイドで支える構造もあります。
フロロメカニックのBCシリーズは、2~12インチのウエハを対象とし、50µmの薄型ウエハに対応する製品を展開しています。
ガラス基板やフィルム

大型のガラス基板やフィルムでは、複数のチャックを使用して荷重を分散します。
チャックの間隔が広すぎると、支持されていない部分が垂れ下がります。中央だけで保持すると外周が下がり、端部だけで保持すると中央部がたわむ場合があります。
外形寸法だけでなく、重心、板厚、反り、許容たわみを考慮して配置を決めます。
プリント基板や電子部品

プリント基板には、穴、実装部品、コネクターなどが配置されています。吸着パッドを密着させる面積を確保できない場合があります。
ベルヌーイ方式は、吸着面を完全に密閉せずに保持できるため、穴や凹凸がある基板にも適用できる場合があります。
噴出した空気が小型部品や異物へ影響する可能性があるため、部品の固定状態や排気方向を確認してください。
食品や多孔質ワーク

餃子の皮、乾燥麺、食パン、コロッケ、厚揚げ、せんべいなどへの適用例があります。
これらのワークは表面に凹凸や穴があり、真空パッドでは空気漏れが発生しやすい形状です。
食品用途では、保持力だけでなく、接触部の材質、洗浄方法、供給エアの品質、異物混入リスクも確認します。SUS304やフッ素ゴムを採用した製品もあります。
ベルヌーイチャックの種類

ベルヌーイチャックは、使用対象と設備への組み込み方によって整理できます。
汎用チャック単体
汎用製品は、自動機、直交軸、昇降装置などへ取り付けます。
チャック本体には、空気の供給ポートと保持機構が組み込まれています。電磁弁、フィルター、レギュレーター、センサーなどは設備側で構成します。
大型ワークでは、複数のチャックをフレームへ配置します。チャック間の流量差を抑えるため、配管長や継手の構成もそろえる必要があります。
ウエハ専用チャック
ウエハ専用製品は、対象とするウエハ径や厚さに合わせて設計されています。
導電性材料、帯電防止材料、PEEK製ガイドなどを使用する製品があります。静電気やクリーン性が重要な工程では、チャック本体だけでなく、供給エアや配管の材質も確認します。
ベルヌーイ吸着ハンド
複数のチャックをフレームへ取り付け、ワーク形状に合わせた吸着ハンドを構成する方法です。
吸着ハンドには、次のような部品を組み合わせます。
- ベルヌーイチャック
- ハンドフレーム
- エア配管
- 継手、バルブ、流量調整機器
- 横ずれ防止用ガイド
- ワーク検出センサー
- 落下防止部品
チャックを増やすと保持力を分散しやすくなります。一方、ハンド重量と空気消費量も増えるため、必要数を見極めることが重要です。
サイクロン方式や旋回流方式
非接触チャックには、旋回流やサイクロン流を利用する方式もあります。
ベルヌーイ方式は主に放射状の流れを利用し、サイクロン方式は旋回流を形成します。保持力、ワークの回転、振動、空気消費量などが異なるため、同じ方式として扱うことはできません。
「非接触チャック」という名称だけで判断せず、内部の流体方式を確認してください。
ベルヌーイチャックのメリット・デメリット

ベルヌーイチャックのメリット
主なメリットは、次のとおりです。
- ワークとの接触面積を抑えやすい
- 薄物の局所的な変形を抑えやすい
- 穴や凹凸があるワークにも適用できる場合がある
- 吸着パッドを置きにくいワークへ対応しやすい
チャックとワークの間に空気層を形成するため、ウエハやガラス基板の接触痕、摩擦傷を抑える方法として検討できます。
吸着面を完全に密閉する必要がないため、穴あき基板、多孔質材、凹凸のある食品にも適用できる場合があります。
ただし、ガイドやストッパーが接触する製品もあります。穴の位置、通気性、反りなどによって保持状態も変わるため、実機テストが必要です。
ベルヌーイチャックのデメリット
主なデメリットは、次のとおりです。
- 保持中も圧縮空気を消費する
- 横方向へずれやすい
- 薄いワークが振動する場合がある
- 排出エアが周囲へ影響する
- 圧力低下時に落下する可能性がある
非接触状態では摩擦による拘束力が小さいため、搬送装置の加減速や旋回によってワークがずれる場合があります。ガイドやストッパーを設け、動作条件を調整する必要があります。
薄いフィルムやシートでは、供給流量が多すぎると振動や高周波音が発生します。チャックの数や配置、供給圧力をワークに合わせて調整してください。
停電、配管外れ、コンプレッサー停止などで圧力が低下すると、保持力も失われます。破損しやすいワークでは、落下防止機構や圧力監視を検討します。
ベルヌーイチャックの選び方

ベルヌーイチャックは、カタログの最大保持力だけでは選定できません。ワーク、搬送条件、エア供給、使用環境を組み合わせて評価します。
| 分類 | 主な確認項目 | 選定への影響 |
| ワーク | 寸法、重量、厚さ、反り、穴、通気性 | 保持力、配置、すき間 |
| 搬送 | 姿勢、速度、加速度、旋回、反転 | 横ずれ、落下、振動 |
| ハンド | チャック数、配置、重量、重心 | たわみ、負荷、空気消費 |
| エア | 圧力、流量、配管、バルブ容量 | 実際の保持力 |
| 環境 | 清浄度、温度、静電気、薬品 | 材質、供給機器 |
ワークの条件を確認する
最初に、ワークの寸法、重量、厚さ、材質を確認します。
同じ重量でも、面積や重心位置が異なれば、必要なチャック数と配置は変わります。薄いワークでは、反りやたわみやすさも重要です。
穴や通気性がある場合は、チャックとワークの間に形成される空気流が変化します。量産品では、寸法公差や反り量のばらつきも確認してください。
搬送姿勢と加速度を確認する
水平に持ち上げる動作と、垂直搬送や反転動作では必要な拘束力が異なります。
垂直姿勢では、ワーク重量が横ずれ方向へ働きます。ベルヌーイチャックの保持力だけでなく、ストッパーや機械的な支持が必要になる場合があります。
搬送速度だけでなく、加速度、減速度、旋回半径も確認してください。
チャックの数と配置を決める
チャック数は、必要保持力をチャック1個の保持力で割るだけでは決められません。
大型ワークや薄いワークでは、たわみを抑えるために複数の支持点が必要です。重心付近を中心に配置し、荷重をできるだけ均等に分散します。
複数のチャックを使用する場合は、各チャックへの配管抵抗もそろえます。配管長や継手数に差があると、流量が偏る可能性があります。
供給圧力と流量を確認する
ベルヌーイチャックでは、使用圧力だけでなく、必要流量の確保が重要です。
コンプレッサーの圧力が仕様値を満たしていても、配管径が細い場合や電磁弁の容量が不足している場合は、チャック入口で圧力が低下します。
主に次の項目を確認します。
- チャック1個あたりの必要流量
- 同時に使用するチャック数
- 配管径と配管長
- 継手や分岐の数
- 電磁弁の流量容量
- フィルターとレギュレーターの流量特性
- コンプレッサーの供給能力
SMC ZNC基本形の使用圧力は0.1~0.5MPa、空気消費量はサイズに応じて131~255L/minです。最大リフト力は5.2~65Nですが、最大供給圧力かつ平滑で非通気のワークを使用した条件を含みます。
これらの数値を、ほかの製品や実際のワークへそのまま適用することはできません。
使用環境を確認する
ベルヌーイチャックは、供給した空気をワークの近くへ排出します。
クリーンルームや電子部品工程では、エアに含まれる油分、水分、粒子を管理します。必要に応じて、フィルター、エアドライヤ、ミストセパレーターを設置してください。
静電気、薬品、温度、オゾンなども部材へ影響します。NBR製部品は、イオナイザーやモーター付近のオゾン環境で劣化する可能性があります。
食品用途では、接触部の材質、洗浄性、供給エアの清浄度も選定条件に含めます。
ベルヌーイチャックでは実機テストが重要

カタログの保持力は、平滑で空気を通しにくい試験ワークを使い、特定の圧力やすき間で測定されている場合があります。
実際のワークには、反り、表面粗さ、穴、柔軟性、個体差があります。カタログ上の保持力を満たしていても、安定して搬送できるとは限りません。
実機テストでは、次の項目を確認してください。
- 安定して持ち上げられるか
- 搬送中に横へずれないか
- 加速や急停止でワークが動かないか
- 薄いワークが振動しないか
- 表面や端面に傷が発生しないか
- 開放時にワークが跳ねないか
- 必要なタクトタイムを満たせるか
- 複数チャックへ均等にエアが供給されるか
- 連続運転中に圧力が低下しないか
- ワークの個体差へ対応できるか
- 異常時にワークが落下しないか
静止状態で持ち上げられるだけでは、搬送可能とは判断できません。実際の速度、加速度、搬送姿勢でテストすることが重要です。
ベルヌーイチャックに関するよくある質問

ベルヌーイチャックは完全に非接触ですか。
チャック本体とワークの間に空気層を形成する製品では、保持面を非接触にできます。
ただし、横ずれ防止用のガイド、ストッパー、ゴム部品などが接触する場合があります。完全非接触が必要な場合は、位置決めと落下防止方法まで確認してください。
ベルヌーイチャックと真空吸着は何が違いますか。
ベルヌーイチャックは、圧縮空気をワーク表面の近くへ流して圧力差を発生させます。真空吸着は、パッド内部を減圧し、大気圧によってワークをパッドへ押し付けます。
ベルヌーイ方式は接触を抑えやすい一方、横方向の拘束力が小さい傾向があります。
穴の開いたワークも保持できますか。
穴や凹凸があるワークへ対応できる場合があります。吸着面を完全に密閉する必要がないためです。
ただし、穴の面積や位置、ワークの通気性によって保持状態は変わります。実際のワークを使用したテストが必要です。
フィルムや薄いシートも搬送できますか。
フィルムや薄いシートは、ベルヌーイチャックの代表的な対象ワークです。
流量やチャック配置が適切でない場合は、振動、しわ、たわみが発生します。複数チャックの配置と供給条件を調整してください。
垂直方向へ搬送できますか。
製品やハンドの構造によっては可能です。
垂直姿勢ではワークの重量が横ずれ方向へ働くため、ガイドやストッパーで機械的に支える構造が必要になる場合があります。
どの程度の重さまで搬送できますか。
搬送できる重量は、チャックの保持力、使用数、供給圧力、搬送姿勢、加速度によって変わります。
特定製品の最大リフト力だけで判断せず、安全率を含めて必要保持力を計算し、実機テストで確認してください。
チャックの数はどのように決めますか。
必要保持力だけでなく、ワークの寸法、重心、たわみやすさから決めます。
大型ワークでは、保持力に余裕があっても、チャック数が少ないと端部や中央部が垂れ下がる場合があります。
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