生成AIの活用領域は、文章や画像の生成から現実世界へ広がりつつあります。なかでも注目されているのが、周囲の状況を認識し、ロボットや機械の行動につなげる「フィジカルAI」です。
日本でも、その実現に向けた大規模プロジェクトとして「FRONTia(フロンティア)」が始動しました。経済産業省とNEDOが推進し、Noetraと産業技術総合研究所を中心に、国産マルチモーダル基盤モデルの開発を進めます。
FRONTiaは、ロボットを直接動かすAIだけを開発するものではありません。画像や動画、音声などを統合し、実世界を理解するためのAI基盤を構築することを重視しています。
本記事では、FRONTiaの概要や開発体制、フィジカルAIとの関係、VLAや世界モデルとの違い、製造業への影響について解説します。
目次[]
- FRONTiaとは
- FRONTiaが始動した背景
- FRONTiaとフィジカルAIの関係
- FRONTiaはVLAそのものを開発するプロジェクトではない
- FRONTiaの開発体制
- 開発枠を担うNoetraとは
- FRONTiaが目指すマルチモーダル基盤モデル
- FRONTiaが目指す「実世界ネイティブAI」とは
- 世界モデルはなぜロボットに必要なのか
- FRONTiaを支える大規模AI計算基盤
- FRONTiaの開発期間とロードマップ
- FRONTiaと国産フィジカルAIのエコシステム
- FRONTiaが製造業に与える影響
- FRONTiaと海外のフィジカルAI開発との違い
- FRONTiaの課題
- FRONTiaの今後の注目点
- FRONTiaに関するよくある質問
- iCOM技研による自動化のご提案|まずはシミュレーションから
FRONTiaとは

FRONTiaとは、フィジカルAIやAIロボットの基盤となる国産マルチモーダル基盤モデルを開発する国家プロジェクトです。経済産業省とNEDOが推進し、2026年度から2030年度まで研究開発を行います。
正式名称は「Foundation for Real-world Omni-Native Trustworthy Intelligence & Alignment」です。2026年6月にNoetraと産業技術総合研究所が採択され、同年7月にFRONTiaとして本格始動しました。
開発するのは、文章だけでなく、画像、動画、音声、3D空間、センサーデータなどを統合して扱うマルチモーダル基盤モデルです。最終的には、実世界の状況や変化を理解できるAIへ発展させ、VLAやロボット基盤モデルなどへの活用を目指します。
FRONTia関連事業には、2026年度に3,873億円規模の予算が計上されています。複数年では最大1兆円規模の事業になる見通しですが、2027年度以降は毎年度の審査を経て継続が判断されます。
また、FRONTiaは日本政府が進める、より大きなフィジカルAI戦略の一部です。政府は2040年度までに、フィジカルAI分野で10兆5,000億円、半導体分野と合わせて78兆5,000億円の官民投資を引き出す方針を示しています。
将来のロボットや製造設備が実世界を理解して行動するため、その土台となるAI基盤を国内で構築するプロジェクトと捉えると分かりやすいでしょう。
FRONTiaが始動した背景

FRONTiaが始動した背景には、生成AIの進化と、フィジカルAIを巡る国際競争があります。
これまでAIの中心は、文章や画像を扱うLLMやVLMでした。現在は、周囲の状況を認識し、ロボットや機械を動かすフィジカルAIへ競争領域が広がっています。
日本政府も、フィジカルAIを今後の産業競争力に関わる重要分野と位置付けています。特に、日本が強みを持つ製造業やロボット技術とAIを組み合わせることが重要と考えられています。
日本の製造現場にあるデータを活用するため
フィジカルAIの開発には、文章や画像だけでなく、現実世界から得られるデータが必要です。
例えば、ロボットの動作履歴、作業映像、3D形状、設備の稼働情報、力覚、音、振動、品質データなどが挙げられます。
こうした実世界データは、日本の製造現場に多く蓄積されています。これらをAI学習へ活用できれば、現場で培われたノウハウをフィジカルAIの開発につなげられる可能性があります。
国内で利用できる基盤モデルを確保するため
現在、高性能な基盤モデルの多くは海外で開発されています。
海外製モデルだけに依存すると、利用条件や提供方針の変更によって影響を受ける可能性があります。また、製造現場のデータには、製品設計や生産条件などの機密情報が含まれることもあります。
FRONTiaでは、こうした産業データを扱いやすい国産マルチモーダル基盤モデルを整備し、国内で継続的に活用できるAI基盤を構築することを目指しています。
FRONTiaとフィジカルAIの関係
フィジカルAIとは、AIが現実世界を認識し、その判断をロボットや機械の動作につなげる技術です。
一般的な生成AIでは、質問に対して文章や画像を出力します。一方、フィジカルAIでは、AIの判断結果が実際の機械動作につながります。
例えば、ロボットが机の上から部品を取り出す場合、まずカメラから対象物を認識します。次に、対象物の位置や姿勢、周囲との関係を把握し、どこを把持するかを判断します。
その後、安全性や周囲の障害物を考慮しながら、ロボットの動作を生成します。こうした「認識・理解・判断・行動」を高度化する基盤となるのが、FRONTiaで開発するAIです。
FRONTiaはVLAそのものを開発するプロジェクトではない
フィジカルAIでは、「VLA」という言葉を目にする機会が増えています。
VLAは「Vision-Language-Action」の略です。画像などの視覚情報と言語指示を理解し、ロボットの行動へ変換するAIモデルを指します。
ただし、FRONTiaではロボットに搭載するVLAだけを直接開発するわけではありません。その前段階となる、大規模なマルチモーダル基盤モデルを重点的に開発します。
ロボットが適切に行動するには、まず視覚や空間を正しく理解できなければなりません。
例えば「赤い部品を箱へ入れて」と指示された場合、対象物を認識するだけでは不十分です。周囲の箱や障害物との位置関係まで理解できなければ、適切な動作は生成できません。
そのため、高性能なVLAを構築するには、その母体となるVLMやマルチモーダル基盤モデルの能力が重要です。
また、FRONTiaでは、大規模モデルで獲得した能力を、軽量化や蒸留によってロボット向けモデルへ展開する方向が想定されています。
FRONTiaの開発体制
FRONTiaでは、研究開発を大きく「開発枠」と「探究枠」の二つに分けています。
開発枠では、大規模な計算資源を使って基盤モデルを構築します。一方、探究枠では、現在のAIが抱える根本的な課題や、将来必要となる技術を研究します。
| 区分 | 主体 | 主な役割 |
|---|---|---|
| 開発枠 | Noetra | 大規模マルチモーダル基盤モデルの開発 |
| 探究枠 | 産業技術総合研究所 | 基礎研究、次世代AI技術の探索 |
| 事業推進 | 経済産業省・NEDO | 政策、研究開発支援、事業管理 |
短中期のモデル開発と、中長期の基礎研究を並行して進める構成です。
開発枠を担うNoetraとは

Noetra株式会社は、FRONTiaの開発枠を担当する企業です。
ソニーグループ、ソフトバンク、NEC、Hondaなどが中核企業として参画しています。さらに、製造、IT、金融など幅広い業種の企業が出資し、2026年7月時点で出資企業・組織は44社に達しています。
代表取締役社長は丹波廣寅氏です。研究開発では、中核企業や出資企業から集まった技術者に加え、産総研やPreferred Networksなどとも連携します。
2026年度からは、高度な日本語理解や論理推論、指示遂行などを備えた推論基盤モデルの構築から進める計画です。
なぜ多くの企業が参加しているのか
フィジカルAIでは、AIのアルゴリズムだけでなく、学習に使うデータが重要になります。
特に実世界で利用するAIには、実際の産業現場から得られる情報が欠かせません。製造企業や建設会社、IT企業などが参加することで、さまざまな産業分野との接点を持てます。
一企業だけでは集めにくいデータや人材、計算資源を持ち寄り、共通のフィジカルAI基盤を構築しようとしている点がFRONTiaの特徴です。
FRONTiaが目指すマルチモーダル基盤モデル
マルチモーダルAIとは、複数種類の情報を同時に扱えるAIです。
人間も、目から得た情報だけで周囲を判断しているわけではありません。設備の動きを見ながら音を聞き、必要に応じて触れながら状態を把握します。
フィジカルAIでも、複数の情報を組み合わせる能力が重要です。
例えば設備点検の場合、画像だけでは異常を判断できないことがあります。見た目は正常でも、軸受から異音が発生している可能性があります。
画像、音、振動、温度、設備データなどを一つのモデルで扱えれば、より多面的な判断につながります。
FRONTiaが目指す「実世界ネイティブAI」とは

FRONTiaでは、2030年度に向けて「実世界ネイティブAI」の実現を目指しています。
実世界ネイティブAIでは、画像に何が写っているかを認識するだけではありません。物体同士の関係や、行動によって周囲がどのように変化するかまで理解することが重要です。
例えば、ロボットが箱を押す場合を考えてみます。
AIが箱を認識するだけでは、適切な動作を計画できません。どの方向へ押せば動くのか、周囲の物体へ接触しないかといった変化まで予測する必要があります。
こうした現実世界の変化をAI内部で予測する仕組みは、「世界モデル」と呼ばれています。
世界モデルはなぜロボットに必要なのか
現在の産業用ロボットは、事前に設定されたプログラムを正確に繰り返す用途を得意としています。
しかし、実際の製造現場では環境が常に一定とは限りません。ワーク位置がずれたり、部品の置かれ方が変わったりすることもあります。
ロボットが未知の状態へ対応するには、周囲を認識するだけでなく、「次に何が起こるか」を予測する能力が必要です。
例えば把持作業では、次のような情報が関係します。
- 対象物の形状
- 位置と姿勢
- 周囲との接触
- 把持可能な部分
- 重量
- 摩擦
- 力を加えた際の変化
世界モデルが発達すれば、こうした状態変化をAI内部で予測しながら、動作を計画できる可能性があります。
FRONTiaを支える大規模AI計算基盤
高度な基盤モデルを開発するには、大量の計算資源が必要です。
NoetraはNVIDIAと連携し、大規模なAI計算基盤を構築する計画です。公表されている計画では、13,750基のVera CPUと、約27,500基のRubin GPUを使用します。
Noetraでは2027年4月から計算基盤の構築を開始し、2028年6月から稼働する予定です。
この計算基盤は、単に巨大なAIを作るためだけの設備ではありません。将来的には、国内企業がフィジカルAIやAIエージェントを開発するための基盤として利用されることも想定されています。
FRONTiaの開発期間とロードマップ

政府策定「AIロボティクス戦略」・実装ロードマップ
AIロボティクス戦略の全体像と、18分野における導入目標、重点施策、短期・中長期の実装方針をまとめた資料です。AIロボットの導入や開発を検討する際の参考資料として活用できます。
FRONTiaの事業期間は、2026年度から2030年度までです。
初期段階では、言語理解や推論能力を備えた基盤モデルを開発します。その後、画像、動画、音声などへ対応範囲を広げ、最終的には実世界を理解するAIへ発展させる計画です。
大まかな開発の流れは次の通りです。
| 段階 | 開発の方向性 |
| 初期 | 日本語理解、論理推論、指示遂行 |
| 次段階 | 画像・動画・音声などの統合理解 |
| 高度化 | 3D・センサーデータ・実世界情報への対応 |
| 実世界展開 | 世界モデル、ロボット基盤モデルへの活用 |
| 2030年度 | 実世界ネイティブAIの実現を目指す |
開発した巨大モデルを、そのままロボットへ搭載するわけではありません。用途に応じて小型化や蒸留を行い、実機で利用できる形へ展開することも重要になります。
FRONTiaと国産フィジカルAIのエコシステム
FRONTiaだけで、日本のフィジカルAI開発すべてを担うわけではありません。
国内では、ロボット基盤モデルや触覚AI、製造業データの整備など、関連する研究開発も進められています。
大きな流れとしては、次のように整理できます。
基盤モデル
→ 実世界データ
→ ロボット基盤モデル
→ 触覚・動作AI
→ 実機への社会実装
そのため、FRONTiaは、このなかでも上流となる大規模マルチモーダル基盤モデルを担う位置付けです。
FRONTiaが製造業に与える影響

FRONTiaの研究成果が実用段階へ進めば、製造業のロボット自動化にも影響する可能性があります。
現在のロボットシステムでは、工程ごとに認識や制御を設計する方法が一般的です。カメラで位置を認識し、PLCやロボットプログラムによって動作を実行します。
フィジカルAIが発達すると、AIが複数の情報を統合し、状況に応じて判断する範囲が広がる可能性があります。
ピッキング
現在のバラ積みピッキングでは、3Dカメラなどを使ってワークの位置や姿勢を検出します。
その後、ロボットはあらかじめ設定された条件に従って把持します。フィジカルAIが発達すれば、対象物の状態や周囲との関係を理解し、把持方法そのものを選択する方向へ進む可能性があります。
組立作業
組立では、わずかな位置ずれや接触状態が作業結果へ影響します。
画像に加えて力覚や触覚をAIが理解できれば、状態を判断しながら動作を調整するロボットにつながります。
コネクター挿入や部品嵌合など、接触を伴う工程への応用も考えられます。
検査・設備点検
現在は、画像検査、振動監視、異音検知などが個別のシステムとして構築される場合があります。
マルチモーダルAIでは、画像、音、振動、設備データなどを統合して判断できます。複数の異常兆候から設備状態を推定する仕組みへ発展する可能性があります。
多品種少量生産
多品種少量生産では、製品変更のたびにティーチングやプログラム変更が必要になる場合があります。
AIが作業内容や周囲の状況を理解できれば、教示負担を軽減できる可能性があります。自然言語や作業映像からロボットへ作業を教える技術とも相性のよい分野です。
FRONTiaと海外のフィジカルAI開発との違い
フィジカルAIの開発は、日本だけで進められているわけではありません。
海外では、NVIDIAやGoogle DeepMindなどがロボット向けAIを開発しています。NVIDIAでは、ロボット基盤モデル「Isaac GR00T」や世界モデル「Cosmos」などを展開しています。
FRONTiaの特徴は、特定メーカーのロボット向けモデルだけを開発するのではなく、日本国内で利用できるマルチモーダル基盤モデルを構築しようとしている点です。
また、日本企業が保有する製造や社会インフラなどの現場データを活用できる点も重要です。
海外の基盤モデルと同じものを追うだけではなく、日本の産業データと組み合わせられるかが競争力を左右します。
FRONTiaの課題

FRONTiaは大規模なプロジェクトですが、実際の産業利用までには複数の課題があります。
実世界データをどこまで確保できるか
フィジカルAIの性能を高めるには、大量の実世界データが必要です。
一方、工場のデータには製造ノウハウや営業秘密が含まれます。企業間でデータをどのように共有し、AI学習へ利用するかが課題になります。
海外の開発速度に追随する必要がある
生成AIやフィジカルAIは、短期間で技術が更新されています。
FRONTiaの事業期間中にも、海外の基盤モデルは進歩します。そのため、固定された開発目標だけでなく、世界の技術動向に応じた継続的な見直しが必要です。
ロボットでは安全性が求められる
生成AIが誤った文章を出力する場合と、ロボットが誤動作する場合では影響が異なります。
フィジカルAIでは、AIの判断が現実の機械動作につながります。そのため、AIモデルだけで安全性を確保するのではなく、安全機器やロボット制御を含めたシステム設計が必要です。
巨大モデルを現場で利用する必要がある
基盤モデルの学習には、多数のGPUが使用されます。
一方、工場のロボット一台ごとに同じ計算環境を用意することは現実的ではありません。蒸留や量子化、エッジAIなどを活用し、現場で利用できるモデルへ変換する技術も重要になります。
FRONTiaの今後の注目点
FRONTiaは、2026年に本格始動したばかりです。
そのため現時点では、完成したフィジカルAIやロボット基盤モデルの性能を評価する段階ではありません。今後は、研究成果がどのような形で産業界へ提供されるかが重要になります。
特に注目したいのは、次の項目です。
- 国産マルチモーダル基盤モデルの性能
- 画像・動画・3Dの理解能力
- 世界モデルの実現度
- 製造データの活用方法
- ロボット基盤モデルへの展開
- モデルの公開範囲
- 商用利用条件
- 実機ロボットによる検証
- 安全性の評価方法
- 海外モデルとの性能差
なかでも2028年は、大規模AI計算基盤の稼働が予定されている重要な時期です。
本プロジェクト成果が、研究開発の段階から実際のロボットや製造設備へどこまでつながるのかが注目されます。
FRONTiaに関するよくある質問

Q1. FRONTiaとは何ですか?
FRONTiaは、フィジカルAIやAIロボットの基盤となる国産マルチモーダル基盤モデルを開発する国家プロジェクトです。
経済産業省とNEDOが推進し、Noetraが開発枠、産業技術総合研究所が探究枠を担当します。
Q2. FRONTiaでは何を開発するのですか?
テキストだけでなく、画像、動画、音声、センサーデータなどを統合して扱えるマルチモーダル基盤モデルを開発します。
将来的には、3D空間や物体の動きなどを理解するAIの実現も目指しています。
Q3. FRONTiaとVLAは同じものですか?
同じものではありません。
VLAは、視覚情報や言語指示からロボットの行動を生成するモデルです。FRONTiaでは、その母体となるVLMやマルチモーダル基盤モデルの高度化を進めます。
Q4. FRONTiaの成果は製造業でどのように使われますか?
将来的には、ピッキング、組立、検査、設備点検などへの応用が考えられます。
AIが画像やセンサーデータを統合して判断し、ロボットの動作へつなげる活用が想定されます。
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